散文

□距離感
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「距離感ゼロ」

と、光君に笑われて、思わず知念から少し離れた。

ベッタリくっついてるつもりはないんだけど、他の人から見ると俺と知念はいつも密着してるみたい。

無意識にくっつくのは、多分知念が小さい声でボソボソしゃべるから。

重なり合うようにくっついた、その距離感でやっとちょうどいい音量。

たまに苛立ってる時、もっとデカイ声で話せよなんて、つい八つ当たりで言ってしまう時もあるけど、自信なさげにボソボソ話す知念の声に耳を澄ますのは、少しくすぐったくて、なぜか気持ちいい。

知念の体温や吐息が、俺の皮膚に伝わる。

優しいにおいと、細くて少し骨張った身体の感触。

弟みたいな感じ?ってよく言われるけど、どちらかと言ったらペットのような感じ。

しなやかで、気まぐれで、甘えて来るけど媚びたりしない。ちょっとシャイで人見知りで、いたずらで、可愛い。

抱こうと手を延ばせば、そこからスルリ、すり抜けて舌を出す。

餌で釣ってもそっけなく、見向きもしないくせに、おれが見てないところで密かに喜んでたりする。

俺には一言も言ってくれないくせに、雑誌なんかでは俺の事をすごく褒めてくれてたりして、いつも後からビックリさせられる。

そんな可愛くないとこが、たまらなく可愛い。

気づくとまた距離感はゼロで、知念がくっついてるというよりも無意識に俺の方が知念に密着してる。

密着するからまた知念の声は小さくなって、ふたりにしか聞こえない会話になる。

どんどん声が小さくなって、そしたら俺ももっと身体をピッタリつけて、心まで耳を澄ませられるように聴覚を鍛えておこうか。

そろそろ知念の本心が聞きたいんだよ。



ねえ知念、

俺の事、本当は好きなんだろ? 


2012.6.17

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