短編小説

□ひとつになること。
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蛍光灯を消して、オレンジ色の間接照明のあかりだけにすると、部屋は急に静かで落ち着いた空間になった気がした。

「ごめんね」

山田に謝られて、わかっていながら、なにが?と少しわざとらしく知念は聞き返す。

今日のステージで、裕翔と付き合っちゃえ、なんて冷やかされてる山田の事を、知念は知らないふりをして過ごした。
別にどうって事はない。だけど不必要に嘘をつきたくないから、みんなと一緒になって2人を冷やかしたりはしなかった。かといって、何か口を挟む事も出来ず、ただ黙って彼はやり過ごしていた。

山田は後ろめたさがあったのか、「怒ってないの?」と聞く。

「平気だよ」と知念がかわすと、「ちょっとくらい怒ってよ、寂しいだろ」と、むしろ自分の方が拗ねる。そんな山田の態度を見て、可愛いなと思った。

「仕事だし、ファンの人もみんな盛り上がってくれたじゃん」

「そうだけど」

「気にしてないよ」

平静に知念は答えた。

平気。

それは本心でもあるし、強がりでもある。でもそんな事をいちいち気にしてたら、山田がドラマの役で誰かに恋したりするたびに、苦しまないといけない。それなら、そんな山田も全部まとめて好きでいたほうが楽しいはずだ、と彼は感じていた。

涼介の事は全部好きだよ。

哀しかったり、切ない気持ちになるのは、自分の中で勝手におこる化学反応みたいなもの。山田のせいじゃない。そっとやり過ごせば、またこうして自分に笑いかけてくれる。

知念はそんな風に考えながら、それでも心のどこか隅っこでは、いつか自分から離れて行く山田の事を常に想像してしまうのだった。

「冗談でも、知念が嫌な気分になってないなら良かった」

と、山田が言う。


「もし僕が相手だったら、みんなあんな風に盛り上がんないかもね」

「なんで?」

「僕が本気だから」

「・・・みんな気づいてると思う?」

「さあ、どうかな」

多分周りの人間はみんな何とはなしに気づいて、優しく守ってくれていると薄々知念は感じている。

山田と些細な事で口論になってギクシャクした日は、薮や有岡が妙に優しかった。

ホテルの部屋割りも、移動の座席も、決まってなくたっていつも当たり前みたいに同じ部屋になる。

さっきのステージ上での事でさえ、楽しそうに盛り上げながらもチラッと知念の表情を伺うように見る者もいた。

それについて何も言わない、口出ししないでいてくれる彼らの優しさに、本当はいつも甘えられているのかもしれない。


「好き」

山田の左肩に知念は顔をうずめて呟いた。




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