短編小説

□ロールシャッハの蝶
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楽屋を訪問した後輩グループのメンバーが動揺するのを見て「あ、そこ2人はいつもそんな感じだから気にしないで」と鏡越しに薮君が笑って言って、「おい、どんなグループだよ」と大ちゃんがツッコミを入れる。

まるで陽だまりの猫みたいに、じゃれあったままの形で寝てしまった可愛いふたり。

俺はお気に入りのミラーレス機で寝ている2人をファインダーに収める。

「タイトルは”ジャンプ・春の名物”ってとこかな」

我ながら可愛く撮れた。会報で使って貰おうか。


双子みたいにいつも寄り添って、けんかして拗ねてはまた気づくとくっついてるふたり。同い年なのに可愛くて仕方ない存在。

おかげで俺のカメラのデータはこのふたりの2ショットがいっぱいだ。


「ロールシャッハみたいじゃない?」と俺が言うと、ソファに座ってた光くんだけがチラッとふたりを見て「ふふ」と小さく笑った。

ものすごく似ているのに、鏡越しのように反対向きな彼らは、まるでロールシャッハテストの、インクの染みでつくられた左右対称の蝶みたい。


学生生活も終わって、10代もあと2年もない。時間があっという間に過ぎて行って寂しい気持ちは、このふたりを見ていると消えていく。

はじめて会った頃、まだ小さくてあどけなかった知念。もちろん俺も山ちゃんも幼くて子供だった気がするけど、知念はさらに小さくて、俺たちは新しく出来た弟みたいに彼をいつも取り合った。
俺と山ちゃんの間に挟まれて、だからこそ知念は人の気持ちにすごく敏感になっていったのかもしれないなと思う。俺たちがギクシャクした時は、いつも知念がスルリと何も言わずに素知らぬ顔で間に入ってくれた。もしかしたら彼が一番大人だったのかなと、今になってみると思う。


こうして眠ってると、ふたりともあの頃みたいにあどけなく見える。

「変わんないよね」と、俺の横で圭人が笑った。


いつまでこの可愛い2ショットが撮れるかな。
10年くらい経ったら、まとめて1冊の写真集でも作ってあげようか。


今日で19歳になる山ちゃん。
29歳の山ちゃんは、知念は、どんな風だろうね。


変わらないものもあるのかもしれない。変わらないでいてほしい。


いつまでも2人は、ロールシャッハの蝶のように。






「ロールシャッハの蝶」おわり



山ちゃんお誕生日おめでとう。

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