短編小説

□朝が来るまで
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エアコンの温度が少し低すぎて、僕は涼介の背中にぴったり密着した。優しいにおいのするタオルケットに包まれて、その肌の感触を頬で確認する。可愛いらしい顔立ちに似合わない、筋肉質でハリがあるその大きな背中は、子供の頃一緒に寝ていた父親の背中にも少し似ていた。

「眠れないの?」

背中を向けたまま涼介が、無意識に彼のおへそのあたりに触れていた僕の左手首をそっと掴む。さっきまで寝息をたててたのに、いつの間に起きたんだろう。涼介は寝返りをうって僕と向かい合わせになる。裸の身体が目に入るとなぜか妙に照れくさくて、僕が後ろを向こうとしたら腰に腕を回して抱かれた。
涼介の胸に頬が密着して、温かい。

「明日の仕事長いから、ちゃんと寝とけ」

そう言って、僕にキスして、髪の毛を撫でてくれる。


涼介と、はじめて一緒に寝たのはまだ2人が中学生の時。仕事で同じ部屋になって、先に寝ようとした涼介をふざけて起こそうとしたら、そのまま腕を引っ張られてベッドに並んだ。向かい合わせになった顔がすごく近くて、睫毛の本数も数えられそうなほどの距離。ドキドキしてる僕を、抱き枕みたいにして、涼介はそのまま寝てしまった。

その頃は、一緒に寝てるのが恥ずかしくて、誰にも言わなかったし、泊まりになるたびに少し期待しながらも、「一緒に寝よう」なんて自分からは言えなかった。さりげなく近づいて、涼介がまたベッドに入れてくれるのを待った。

足を絡ませて、密着しあって、お互いの体温やにおいを感じて安心するように眠る。

そうすると涼介は必ず夜中にトイレに起きる。僕は何となくその気配にいつもぼんやりと目が覚めて、またすぐに眠りに落ちた。

ある時、寝る前に涼介が瓶入りのミネラルウォーターを飲もうとしてるのを見て、「やめなよ、必ずトイレに起きるんだから」って僕が言ったら、涼介はちょっと困った顔して「オシッコじゃないよ」って笑った。

トイレじゃないならいつもどこへ行くんだろう、と僕は思った。

いつも涼介が起きる気配で何となく目を覚ましても、その後すぐに再び眠ってしまうので、それを確認したわけじゃなかった。

だけど朝になるとベッドに戻ってるのに、夜中に誰かの所へ行ってるんだろうか。

そう思ったら無性に寂しいような、取り残されたような気持ちになった。

いつもと同じように、その日も涼介がベッドを出ようとする気配を感じて、寝ぼけながら僕は涼介のジャージの裾を咄嗟に掴んだ。

「山ちゃん、どこ行くの・・・」

ベッドサイドについたオレンジ色の照明が涼介をぼんやりと照らしてた。

「行かないで」

僕の声が、現実と夢の間を行き来する。ウトウトと目が覚めかけてるけど身体の半分は夢の中にいるような、そんな状態。

涼介がベッドに戻って、また隣に横になると、僕の肩をそっと撫でた。

「起きちゃったの?どこにも行かないよ」

その声に、安心すると、また瞼が重くなる。寝返りをうった僕の背を、涼介が強く抱いて、僕は温かいその腕に包まれた。

ウトウトと夢に戻りかけた時、僕はある事に気づいて、半分眠っていた意識が完全に覚醒してしまった。

僕の腰あたりに、硬いものが当たって、それを避けようと触れた手を、僕は慌てて引っ込める。

中学生の僕にも、それがどういう状態なのかはすぐに理解できてしまった。僕にもそんな状態になる事はある。だけど涼介のそれが、僕の身体に触れてる事にひどく狼狽した。

思わず息を飲んで、それからすごく、ドキドキした。

山ちゃんの、勃ってる・・・。
そう思ったら、なぜか自分のそこにもジンジンと血液が集中するのを感じた。

さりげなく、身体をずらそうとするけれど、涼介はしっかり僕を後ろから抱いていて逃げられない。

「知念が行くなって言ったんだよ」

涼介がそう言うと、硬くなったそこを僕の身体に押し当てる。

「山ちゃん・・・」

僕はそういう事にまるで慣れてなかったし、恥ずかしくて縮こまる。

涼介は僕の前に手を延ばし、ズボン越しに僕のに触れて、ゆっくり擦った。

「や・・・」

撫でるように全体をさすっては、ゆっくり手をすぼめて捕まえて上下する。すでに勃ちかけてた僕のそこは涼介に擦られて、完全に勃起してしまった。

当時の僕は、涼介の前で勃起してしまったというそれだけで、すごい羞恥と罪悪感を感じて、いたたまれない気持ちでいっぱいになって、そのまま走ってその場を逃げ出したかった。

涼介はそんな僕のズボンと下着をいとも簡単に剥くと、どうしていいかわからずに動けずにいる僕を、後ろから抱いたまま、片手で直に僕の性器に触れた。

はじめてそんなところを他人に触れられて、身体から火花が出るくらいにビリッと弾ける。

「あ・・・あっ」

驚く間もなく、今度は涼介が後ろから僕の太ももの間に自分のを挿入した。腰をピッタリ押し付けて、僕の股の間を涼介のそれが擦って出し入れされるたびに、熱くて硬い肉の感触が、お尻の方から僕のモノの裏側を擦った。前から手で弄られる強い刺激と、後ろからのその感触に僕は声をあげて泣いてしまうくらい感じてしまった。

「足閉じてろよ」

そう言われて素直にぎゅっと両脚を閉じる。涼介が、腰を前後するたびに、僕の喉から女の子みたいな声が出る。自分の声じゃないみたいなその声が、すごくやらしく感じて戸惑った。

涼介の動きが激しくなって、呼吸も荒くなる。僕は初めての事に動揺して、それなのに頭が真っ白になるくらい気持ち良くて、我慢できずに泣きながら涼介の手のひらの中で爆ぜた。涼介も射精して、僕の股の間を濡らした。

まるで夢みたいに気持も身体もフワフワして痺れてた。甘い気持ちと、ほろ苦くて泣きたくなるような切なさに、全身から力が抜けて、ただひたすら涼介にしがみついた。

身体が顔が、火がついたみたいに熱くて、燃えてなくなりそうだと思った。涼介に見つめられると恥ずかしくて、ドキドキと心臓が狂ったみたいに波打つ。

ただ狼狽えて泣きじゃくる僕を抱きしめて、涙と汗でぐちゃぐちゃになった僕の頬に、涼介はキスをしてくれた。

その後、お風呂場で涼介が僕の身体を丁寧に洗ってくれてる間、自分達に起きた出来事をゆっくり思い出したら、悲しいわけじゃないのに何故か気持ちが昂ぶって、ポロポロと涙が出て、涼介を困らせた。そのたびに涼介は「ごめんね」ってキスをしてくれた。



あの夜から今日まで、4年余り。僕たちは何度も肌を合わせて、お互いの体温を、体液を交換し合って味わい、交わった。

時には昼間、涼介の何気ない声や仕草に、仕事中に思い出してドキドキする。身体が反応して、慌てる事もあった。

涼介とセックスをするのは気持ち良くて、もう死んでもいいって思う時があるけど、その後にこうして、涼介の腕に抱かれて朝まで眠る時間が、僕は一番愛おしい。

時が経って、少しずつ大人になればなるほど、愛おしさで胸がいっぱいになった。

このまま朝が来なければいいと、いつも思う。2人こうして、溶け合って、バターみたいにひとつの塊になるような想像をした。

この行為は何だろうと、疑問にも思わない。涼介にそれを尋ねて困らせたりもしない。涼介にとっては戯れかもしれない、ただの暇つぶしなのかもしれない。

涼介と僕だけが共有してる、大きな秘密。これから先も誰にも言うつもりもないし、もし涼介に彼女が出来て、いつかこの関係が終わるなら、そっと思い出にしてあげる。

ただ朝が来るまでは、こうして抱いていて欲しいって、いつもそう思いながら眠りにつくんだ。




【朝が来るまで】おわり

.2012.4.26

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