短編小説

□知念君の奇妙な愛情
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【有岡君の場合】



知念を呼ぶ山田の声が甘い。反して知念はと言えば、さっきから俺の膝を枕にしてソファでゴロンと寝転んで、山田の言葉にうんうんと適当な相槌を打っている。

この2人、なんかいっつもこんな感じで、俺としては非常に焦れったく感じる。もうくっつくんならくっつけよ!みたいな。まあ多分、俺だけでなくみんなそう思ってるんじゃないかな。面倒な奴ら。いや、とりわけ面倒なのはこいつ、知念。俺の膝に頭を乗っけやがって、さっきから動くに動けないだろーなんて。可愛い奴なんだけどね。

昔は「大ちゃん大ちゃん」っていっつも俺にくっついて来るから、てっきり俺の事大好きなんだな、なんて思ってたのにいつの間にか山田に夢中な感じになっちゃってさ。あの時の俺の無駄にフられた感、どうしてくれんの?って思ったよ。

とはいえ、犬っころみたいな奴だからね。可愛くて人懐こい。相変わらずこうやって甘えて来るし。

だけどコイツ、山田にも好き好きアピールする癖に、山田が本気になると急にビビんの。何なのかねコレ。山田にしてみりゃ思いっきり肩すかし食らうわけだから、正直山田が気の毒です。

極度に怖がりなんだろうな、愛情に対して。本気になったら失うのが怖くて本気になれないっていうか。でも逃げてるだけで、すでに充分本気じゃんって思うんだけど。

山田は山田で、そんな知念の態度に弱気になって、毎回怯んじゃう。

「知念の気持ち、全然わかんねえ」なんて、俺に相談しちゃうくらい女々しく悩んだりしてるんだぜ?あの山田がさ。


「あいつはさ、ちゃんと知念を愛してくれると思うよ」と、余計なおせっかいで知念に諭すも、「何の事だかサッパリわかりません」なんて誤魔化してスルリとすり抜けるから俺にはどうしようもないの。

もう2〜3年そんな感じ。こういうのって膠着状態って言うんだっけ。引いては押して・・・あれ?駆け引きとしては上等なのか。そういや年々山田の本気度も増してるし、もしかしてそういう作戦なのか?こわっ

知念をちらりと見やると、澄ました顔で今月号の雑誌を眺めてる。よく見りゃ熱心に山田のページを見てんじゃん。

山田、長期戦かもしれないがせいぜい頑張れよ。




「知念君の奇妙な愛情」

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