短編小説
□サイン
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「弁当、何食う?」
って知念に聞いたら、俺の手の甲に指で文字を書いて来た。
イ、ラ、ナ、イ
「食べないの?なんでだよ」
ス、イ、テ、ナ、イ
「お前いっつもそうじゃん、何食って生きてんの?」
ユ、メ
おい。
冗談で返すな!本気で心配してんだぞ。
ちゃんと食べて欲しいよ俺は。倒れたらどうすんだよ・・・。
知念の頭をぽんと叩いて、とりあえず弁当を2個頼む。
大人になりたくない、あんまり大きくなりたくないって、もしかしてそう思ってる所があるのかな。
ピーターパンにでもなるつもりか?
でも夢だけじゃ飛べないぞ。ちゃんと食べて、力つけないと。
「そういえば俺、知念の夢見たわ昨日」
「え、どんな夢」
やっと身を乗り出して知念が声を出した。
「言えないなそれは」
「うわ、やらしい〜」
「なんでだよ」
いやマジでちょっとやらしい夢だったんだけど・・・という事はとりあえず秘密にしておこう。
そう思ってたら、通りかかった大ちゃんに
「涼介が僕のやらしい夢を見たんだって!」
とか言ってやがる
お前なに言ってんだよ
大ちゃんは5分以内に伊野ちゃん達に話すだろ、それ多分帰る頃には確実に「山田は毎晩、知念のエロい夢を見てる」くらいの話になってるぞマジで。
「お前は見たことないの?」
「え?」
「俺の夢」
「涼介の夢なんか見な〜い」
「あっそ」
「現実の方がいい」
って俺の腕にぎゅっと抱きついて来る。
あーそういう事ね。
ってバカ!
喜ばせんな
・・・なんだろうなぁ
女の子の方が小さいし柔らかいし綺麗かもだけどさ。
それでもなんでこいつがこんなに可愛いんだろう。
顔も可愛いけどさ、顔が、とかじゃないんだよなあ・・・
たまには憎たらしい事も言うんだけど、なんかもう存在が愛しい。
好きすぎる。
そう思って知念の顔を眺めてたら、なあに?って顔で俺を見る。
「いや、お前の事好きだなと思って」
そう言ったら思いがけず照れてそっぽ向くから、俺も照れんだろバカ。
髪の毛をクシャクシャにしてやった。
「ねえ昨日の夢の続き、しよっか?」
からかい半分で知念の耳元で囁いてみたら、耳を真っ赤にして「いいよ」って呟いた。
いいのかよ!
おーい、俺は本気だぞ!
自分から誘ったくせにドキドキして喉がぎゅっとなる。
いいんだな?
チラッと知念の顔を覗き込んだら、クシャッととろけるような可愛い笑顔。
ああ、好きだなあ。
俺、大切にするからさ
そろそろ、冗談でごまかすのやめて、一歩踏み出してもいいよね?
「じゃ、今日泊まり来て」
机の下で、そっと手をつないだら
「行ってもいいよ」って。
上から目線だけど、もはやそれすらも心地いい。
お前のせいで若干Mっ気が出てきたじゃないか、責任取れよ。
知念がつないでた手をほどいて、その手で俺の手の甲に再びゆっくり指をすべらした。
ス
キ
ダ
ヨ
動揺して椅子から転げ落ちた俺を見て、知念がにんまり笑った。
「サイン」おわり
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