長篇小説

□春の夢
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「知念君だよね?」

声をかけられて振り返った。
新曲のダンスのフリを教わって、1人の帰り道。


車の後部席の窓から顔を出して、声をかけてきたのは40代後半くらいの男の人。
渋めのジャケットで、落ち着いた雰囲気

誰だっけ・・・

顔は見た事あるけど、多分会った事はない人だと思った。

「こんばんは・・・」

なんとなく僕は自信なさげに頭を下げて挨拶すると、向こうはわざわざ車を降りて名刺を差し出す。

名刺に並んだ文字を見て、「え!」
と、思わず声に出して、もう一度顔を見た。

沢渡伸哉監督。
世界でも評価されてる、有名な映画監督。

監督の次回作の主演オーディションを、涼介が受けに行ったのはつい先月の事だ。

タレントは、オーディションなんか受けないって思ってる人も多いけど、僕たちは、オーディションを受ける機会が結構ある。

勿論最初からオファーがあるものや、事務所が取って来てくれる仕事もあるけど、大きな仕事なら特に、事務所から何人か、オーディションを受けに行ったりもする。

前から沢渡作品が大好きだった涼介が、絶対に受かりたいってすごく張り切ってたし、JUMPの名前を売るにも大きなチャンスだからって、事務所もだいぶ意気込んでた。



その沢渡監督が、なぜか僕の目の前にいた。




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