散文
□departure
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大ちゃんが席を立って、ふたりきりになった途端、僕はなぜか黙ってしまう。
そしたらふいに涼介が、iPhoneのカメラで僕の事を撮った。
「お守りにする」
と、涼介は撮ったばかりの画面を僕に見せる。
急にカメラを向けられて、無防備な僕の顔が写っていた。
「万が一、何かあった時…」
そんな嫌な言葉は聞きたくない。
「何もないよ、あっという間だよ」
と涼介の言葉を遮るように僕は言った。
心配なんかまるでしてないように平気な顔でそう言って、涼介が失望するのはわかってたけど、
そうしないとダメな気がした。
心配症の涼介じゃなくたって、本当はすごく心配だった。
安全を危惧する声を、周囲で何度も聞く度に、聞こえないフリしてごまかしてきた。
危険が少しでもあるのなら、どうして行くの?
なんで涼介が行かなきゃいけないの?
そんな風に言って涼介を困らせたくないから、
だから不安な事は考えたくない。
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