LC短編

□なちゅらる。
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ひと月まえ、バレンタインを知らなかった僕は、ユーフェミア皇女殿下の勧めで、お世話になっている人々に、手作りのチョコレートとカードを贈らせてもらった。
親しい人に、日頃の感謝の気持ちを込めてチョコレートの贈り物をする日だと教えられたからだ。

いちばんの親友のスザク、特派のロイドさんにセシルさん、それから生徒会のメンバーと、おこがましいかとは思ったがユーフェミア殿下とコーネリア殿下にも。

みんな驚きつつも、喜んでくれた様子だったのが嬉しかった。
コーネリア殿下にだけは「脆弱な!」と叱責されるかとヒヤヒヤしたが、ユーフェミア殿下と一緒に渡しに行ったのがよかったのか、なにか言いたげな顔はされたものの、けっきょく小言をもらうこともなかったし。ただ、コーネリア殿下の少し後ろで見ていたギルフォード卿が、微妙に笑っていたのが気にはなったが。

それから、今は敵同士ではなくなったため、交流のできた黒の騎士団のほうにも、なるべく大勢で食べられるようにと思って、多めに作ったトリュフを贈らせてもらった。
ただ、それをゼロに渡すとき、まわりの騎士団の人たちが妙に挙動不審だったのは、なんだったんだろう…。ゼロの様子もなんだか変だったし。
予想外だったろうから、驚くのはわかるが、それにしては驚きすぎだったような…。よくわからない。

あとは騎士団のなかでも個人的に友人同士のカレンに、騎士団向けのものとは別に、花を添えてチョコレートを贈った(これもユーフェミア殿下の助言で、女の子には花をいっしょに贈るものだと言われたからだ)。
驚きすぎたのか、カレンは赤くなっていたが、そのカレンから、実は自分も用意していたから、と、チョコレートをもらえたのには、僕のほうも驚かされた。
僕が軍に入ったときから、カレンには距離をおかれていたような気がしていたからだ。…まあ、彼女が黒の騎士団に所属していることを知った今では、それもしかたなかったのだとわかってはいるけれど。
ただ…、そのせいで、騎士団の人たちの様子がおかしかった理由をたずね損ねたのは、我ながら動揺しすぎだったなと思う…。反省しつつ、ちょっとへこんだ。



そして今日は3月14日。ホワイトデー、というらしい。
エリア11では、バレンタインのお返しをする日、だそうだ(これはスザクから聞いた)。

僕自身がバレンタインのギフトをもらった相手は、生徒会の女性陣にユーフェミア殿下、そしてカレン。彼女たちに、お返しをしなくてはならない。

ユーフェミア殿下には、早起きして焼いたフルーツタルトを。
生徒会の4人(ミレイさんにシャーリー、ニーナ、そしてナナリーだ)宛てには、抹茶味のマフィンを。
どちらも本人たちのリクエストだ。
学園の面々には特区に出勤してくる前に、殿下には朝一番の執務室で、それぞれ渡してきた。
あとは、カレンだが…、朝はもう警備の巡回に出たあとで、渡すことができなかった。
昼には食事のために戻ってくるはずなので、今、政庁のなかの、職員用の食堂で昼食をとりながら、カレンが来るのを待っている。

鯵の開きに箸を入れたところで、入口のほうが騒がしくなってきた。
目を向ければ、黒い制服の集団が視界に入る。警備に出ていた騎士団メンバーが、食事に戻ってきたのだろう。集団のなかに紅い髪が見えたので、片手をあげて声をかける。

「カレン」

「あら、ライじゃない。今日はこっちで食べてるの?」

「カレンに用があったからね。ここにいれば会えると思って」

会話しながら、騎士団の仲間たちといっしょにトレーを持ってこちらへ来たカレンに、用意していたお返しを渡す。

「今日はホワイトデー、という日なんだろう?だからバレンタインのお返しをと思ってね。マシュマロを作ってみたんだけど」

「え…わ、私にっ?」

すごくびっくり顔になったカレンがお返しを受け取ると、まわりの黒の騎士団メンバーが「よかったじゃないか」「おめでとう」などと笑顔ではやしたてながら、僕の左隣にカレンを座らせ、自分たちもそのまわりに陣取った。恥ずかしかったのか、横目で僕をにらむカレンは真っ赤になっている。

「口にあうといいんだけどね。じゃあ、カレンも食べなよ?冷めるまえに食べたほうがいいと思う」

止めていた手を動かして、食事を再開しながら僕が言うと、なぜか、カレンが遠い目になった。

「……そうよね、そういえばライなんだもんね…」

「…ん?何が?」

小さなつぶやきを聞き取れなかったので問いかけたが、なんでもないわ、と疲れた声で返されただけだった。
よくわからないが、カレンはそのまま食事をはじめたので、まあいいか、と思い直して、僕も味噌汁に口をつけた。ん、美味しい。
そのあとは、カレンや騎士団の人たちと当たり障りのない雑談をしながら、僕も食事を続けた。


「今日はお弁当じゃなかったんだね」

半分くらい食べ終わったあたりで、聞き慣れた声がしたと思ったら、トレーを持ったスザクがこちらへ歩いてきた。

「スザクも今から昼か」

まわりにいた騎士団の人たちのなかには、スザクに複雑そうな視線を向ける者もいたが、スザクは気づいてはいないのか、そのまま、黒い制服の群れのなかにいる僕の右隣に座る。

「いつもみたいに中庭で食べてるのかと思ったのにいなかったから、今日はもう会えないかと思ったよ」

「さがしてくれていたのか?」

「うん、君に渡すものがあったから」

そしておもむろに、ふところから綺麗なラッピングのほどこされた、プレゼントらしき小振りな包みを取り出して、そのままそれを僕に差しだしてきた。

「はいこれ」

「?ありがとう…?」

反射的に受け取ったものの、今日は別に、誕生日だったりするわけでもない。なぜスザクが、僕にこんなものをくれたんだろう?
不思議に思っていたら、たぶん顔にそれが出ていたのだろう。スザクはさわやかに笑って、答えを教えてくれた。

「今日はバレンタインのお返しをする日だって教えてあげたよね?それは、僕からライへ、ホワイトデーのお返し。君がバレンタインにくれたのみたいに手作りじゃないけど、そのぶん心を込めて選んだんだ。僕からの気持ちだよ」

ぶーっ!

スザクが言った瞬間、カレンをはじめとした、まわりで食事していた日本人の人たちが、いっせいに食べていたものを噴いた。

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