LC短編
□それって、
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「受けとってくれ。僕の気持ちだ」
その瞬間、教室じゅうがいっせいに、音もなくどよめいた。
目のまえの彼の手には、ていねいにラッピングをほどこされた小箱があり、両手でそっと持ったそれを俺にむけて差し出した姿勢で。
やわらかく緩んだ眼は、親しみを込めてまっすぐに俺を見ている。
集まる周囲の視線。
固唾を呑んでこちらをうかがうクラスメイトたち。
どこからか、あのふたりってやっぱり…、などとささやきかわす声。
「……」
待て。とりあえず落ち着け、よく考えるんだ俺。
「…ルルーシュ?」
固まったまま反応を見せない俺を不思議に思ったのか、彼――ライがこてん、と首をかしげながら俺の名を呼んだ。
「……ライ。今日が何の日か知っているのか?」
額をおさえて考えをまとめながら問いかける。
「?…バレンタインだろう」
わかった上でのことか!?……いや、こいつは妙なところで天然だ。本当に理解しているのかどうか、確認する必要がある!
「…なら、なんの日かは知っているか?」
「今日は、親しい人や世話になった人にチョコレートを贈る日、だろう?」
知っている、会長とシャーリーに教えてもらったから、と、蕩けそうにやさしい笑顔で返されて、思わず膝からへたりこみそうになったのを、意地でこらえて、正面からライの顔を見据える。
「…ライ。たしかにそういう習慣もあるが、その場合なら贈るのは花やメッセージカードだ。この日にチョコレートを贈るのには、違う意味がある……そちらについては、教えられていないのか?」
「違う意味……?」
きょとんとしたあどけない表情で、ライは首をかしげる。その仕草は妙に幼く見えて、たいへん心臓によくない……、じゃなくて!
「いいか、ライ。エリア11において、特にここアッシュフォード学園においてはな。この日にチョコレートを贈るのは、愛の告白、という意味になるんだ」
「えっ、……」
絶句して、ライはそのまま、一気に真っ赤になった。まわりがなぜ注目しているか、その理由にいま、気がついたらしい。
「会長…っ!」
絞りだすような声で唸るライ。…やはりというべきか、聞かされてはいなかったらしい。
あのブルームーンの日以降、ミレイやシャーリーから「そういう」扱いやからかいを受け続けてはいたが、俺もライもまともにとりあわず、軽くあしらい続けていた。
俺たちは確かにあのブルームーンの夜、互いに互いの騎士であることを誓い、共に歩むと約束を交わしたが、彼女らが言うような関係ではないのだ。
下手に反応すれば面白がられるだけなのはわかっていたため、俺たちのほうも、まともに相手にしていなかったのだが…、こういう手に出るとは、さすがに予想できなかった。
ライが妙なところで世間知らずなのを、まんまと利用された形だ。
「…すまない、ルルーシュ。してやられたみたいだ…」
うなだれたライは、かなり落ち込んでいるようだ。
「気にするな。お前は知らなかったんだから」
「ああ…」
ライの肩にかるく手をおいて慰めると、まだ少し沈んだ声で、ライが力なく頷いた。
そのふたりの様子を、やや離れた位置から見ていたスザクとリヴァルの、
「そういうことするから、ミレイ会長に遊ばれるんだってことは…気づいてないんだろうなぁ」
「ふたりとも、アタマはいいはずなのにな〜」
というやり取りは、幸か不幸か、渦中のふたりには、届かなかったようだった。
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