LC短編
□だいじなこと。3
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その日、食堂で昼食をとったあと、仕事に戻ろうとしていたら、顔見知りのブリタニア側の文官から、ちょっとお話が、と呼び止められた。
僕はゼロの補佐役という仕事柄、ブリタニア側と関わる機会も多いため、他の黒の騎士団員よりも話しかけやすいらしく、こうやって呼びとめられることはよくある。
「……その、作戦補佐殿……、お聞きしたいことがあるのですが……」
「…なんでしょうか?」
さて、次の会議の確認か、それとも第二次住民募集の計画書についての相談だろうか。
「あの、……あなたのお名前のことなのですが」
「僕の名前……、ですか?」
これは雑談、だったか?どうも、仕事の話、というわけではなさそうだ。
…が、それにしては、なにやらずいぶんと言いにくそうだが…。
「その……、大変失礼かとは思いますが………あなたのお名前が、本名ではなくコードネームなのではないか、と言う者がおりまして……」
言いながら、ちらちらと、こちらの顔色をうかがう文官。
まあ、偽名使ってるだろう、と正面から言っていることになるわけだし、相手によっては、ここで「侮辱された」と怒りだしてもおかしくない。警戒したくもなるだろう。
しかし、幸いにもと言うべきか、こういった疑いをかけられるのは初めてではないため、腹が立つよりも、またか、と苦笑してしまう。
「…残念ながら、コードネームではありませんよ。僕の名前は、ほんとうに『嘘つき』というんです。ゼロに決めてもらったんですよ」
「え…」
文官が微妙な表情になったので、説明を付け足すことにした。
「…実は僕には記憶がなくて、正式な名前がわからなかったんです。そのときに、ゼロが名前をくれまして。だからそのときから、ライアが僕の名前なんですよ」
記憶のくだりで、文官は露骨に「悪いことをきいてしまった」という顔になったから、わざと軽い感じで、さらっと続けた。
「苗字(は、血液検査でわかった僕の正式な姓ですけどね。ここにいる僕のために決めてもらった、というのが嬉しかったので、名前の「ライア」はそのまま使うことにしたんです」
疑問は解消されましたか?と笑顔で問いかければ、文官は少し赤くなりながら、ありがとうございました、と頭をさげて、小走りで去っていった。…なんで赤くなったんだろう。
首をかしげながら、午後からの仕事のために執務室へと足を向ける。
少し遅くなってしまった。きっとゼロが、書類に埋もれて待っている。
コンコンコン。
ノックを3回。僕だ、と声をかけて、中から招かれるのを待つ。
入れ、と素っ気なく返事があって、扉の内に迎え入れられる。
「戻ったか、ライ」
「ああ、ゼロ。遅くなってすまない」
なにかあったか、と尋ねられて、食堂の帰りに、文官と交わした会話のことを話すと、ゼロ──ルルーシュは、仮面の下で苦笑したらしかった。
「だから、あの綴り(はやめておけと言ったのに」
「どうして?ぴったりじゃないか」
だって記憶が戻ったことも、聞かれないことを言い訳に、目の前の彼以外の誰にも言っていない。
くすくす笑いながら僕が答えれば、彼──ルルーシュは仮面をはずしながら、あきれたようにため息をついた。
「ドイツ語で『竪琴(』のつもりだったんだがな、俺は」
「それこそ似合わないよ」
このやりとりも何回めだっけ?と笑いながら続ければ、ルルーシュは苦笑を浮かべただけで、それ以上はなにも言わなかった。
「いいんだよ、今の僕の名前はLiar=K、巫(
來夜(で。ここにいる新しい僕のために、君がくれた名前が、『ほんとう』なんだから」
それこそが、この時代を生きると決めた、「ライ(」の、真実(。
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