冗談

□一つ屋根の下A
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「実家から送ってきたんすよ。多分芋羊羹だと思うんすけど…皆で食べませんか」


竜崎の眼球が輝いた。

(松田、たまには役に立つ。その段ボール持ってよろついてる姿がバカっぽいのは勘弁してやろう…)


えげつないことを考えながら羊羹に手を伸ばす。


しかし、その手は目的のブツに辿り着く前に、ぴしゃりと張られてしまった。




見上げた視線の先には。




夜神月―――――!!





「駄目だよ竜崎」

「駄目…?」

「ああ、駄目だ」

爪を噛んで拗ねたように背を丸めている竜崎を見下ろして、ライトの声はただ冷たい。


「コンテストまで甘いものは控えるんだ」



…………っ!!



竜崎完全に固まる。



「そんな、殺生な…」

そう言って羊羹を竜崎に渡そうとした松田だが、その手もまたライトによって張られた。

「ライト君!」

「どうです、松田さん。手の先は痛いでしょう」

「!……キラ…ッ」

松田、撃沈。


「竜崎、禁断症状という言葉を知ってるな」

「今まさにそれです」

「コンテストまでその欲求を取っておけ。いいか、これは勝つための作戦なんだよ」

「作戦…なるほど」

「うまいこと言って初代を殺そうとしてます」

死活問題らしい。


ニアの言葉に、竜崎は少し考えた後、首を傾けたままへらっと笑ってみせた。

「では、あえてそれに乗りましょう」

「死ぬかもしれないと分かっていて夜神月の策に乗るんですか?」

「おい、人聞きが悪いぞ」
「そうです。私は死なないし、コンテストにも勝ちます。そういうことです」


そんなわけで、がぜんやる気を出した竜崎により、松田家の芋羊羹は全て破棄された。





…アンマリジャナイスカー!!








あっという間にやってきたコンテスト当日。

出陣する竜崎の傍らには、ライトとニア、そしてマットにワタリ。


「何だ、応援は僕らだけか?」

「メロは居酒屋でバイトです。今頃"っしゃーませ"とか言ってます」


「魅上はどうした?」
「今日は大事な裁判の日だそうです」

「ミサ、あいつは何してる?」
「弥ミサは雑誌の撮影です」

「清美は?」
「高田清美も仕事ですよ」

そうか皆仕事なんだ、とライトは納得して会場を見渡す。


「にしても…凄いな」


会場を埋め尽くす猛者達。皆家族や友人の期待を一身に背負った表情で、女性の姿も少なくはない。

甘党ってこんなに居るのか、と一種感慨のようなものがライトに湧いた。


と、竜崎の横に座っていた出場者その1が、突然こちらを指差し言い放つ。

「ケッお前ひょろひょろだな!恥かく前に、帰りな!!」

竜崎はぎょっとした様に目を丸くし、続いてわずかに顔をしかめた。

それもそのはず。出場者その1の体型と来たらまさに豚そのもの。千と千尋からそのまま抜け出してきたに違いない。
それが顔中に脂汗をかき、方角南南西の竜崎に向かって唾を撒き散らしているのである。


「So fat…醜いです」


ニアの言葉に、一同無言で頷いたが、

「竜崎もそのうちあんなんなるぞ…」

ワタリがぼそりと呟いたのをマットは聞き逃さなかった。

(ひぃぃ…呪咀だよ、呪咀)


戦戦兢兢とするマットをよそに、コンテストの火蓋は切って落とされた。







最初のメニューは、苺のショートケーキ。



「これです…!これが食べたかったんです」


ここ数日誰一人としてお目にかかれなかった竜崎の笑顔が花開く。

何度か角度を変えて皿の上のケーキを眺め回した後、丁寧にフォークを刺す。


ライトは気が気ではない。

(そんなスピードじゃ、勝てないだろ…)
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