鋼の錬金術師

□act.8 再会と前進
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いつの間にか雨は上がり、水溜まりには綺麗な青が映り込んでいた。適度な湿気を含んだ涼しい風が、駅へと向かう人々の間を吹き抜ける。

そんな爽やかな陽気の中で、対照的な足取りの人物が1人。

必要な物をまとめたトランクを黙々と運ぶグレイは、どこか浮いていた。

重い荷物を片手にプラットホームまでやって来ると、待ち合わせした人物が居ないかと辺りを見回す。やがて目に入ったのは、しっかりと荷造りされたアルだった。

「お待たせ。少佐とエドは?」

うっかり普通に話し掛けて、慌てて口を閉じる。すっぽりと木箱に納まった鎧に話し掛けるその様子は、変人以外の何者でもない。近くを通り掛かった駅員の視線をナチュラルな笑顔で誤魔化すと、トランクをついでに預けた。

「今来ますよ。多分席確保しに行ったんじゃ――」

駅員が去ったことを確認したアルが言いかけるが、すぐに別の声に遮られる。

「お客様、宜しいですか?」

頭上から降ってきた声を見上げると、また別の、不審者を見るような目付きの駅員と目が合った。

「この荷は、もう積み込むので」

「あぁ……すみません」

これ以上怪しまれては敵わないと飛び退いたグレイの目の前で、2人がかりで持ち上げられたアル。そのままスムーズに移動した彼は、貨物車両――ではなく、何故か家畜車両に姿を消した。

――なぜ家畜車両……

ぽかんと見送っていると、アルと入れ替わるように、エドと少佐が歩いてきた。

「クラウド伍長、荷支度は完璧であろうな?」

「はい。さっき貨物車両に乗せました」

その返事に満足そうに頷いた少佐は、真っ直ぐ家畜車両の方へと歩いていった。どうやらアルの待遇の原因は彼のようだ。

いまいちよく分からない思考回路に、呆れ半分、疑問半分の目で大きな後ろ姿を見送った彼の後ろでは、エドが溜め息を吐いた。

「まったく……あの傷の男とかいう奴のお陰でややこしいことになっちまったなぁ……」

「まぁまぁ。今更言ったってしょうがないでしょ」

表は取り繕って宥めてみせたグレイだが、内心では溜息を吐いていた。

最近面倒事に巻き込まれ過ぎている気がするのだ。それも以前の生活からすれば2年分くらいの量の。

そして、もう1つ。休憩室で話して以来、2人の間に漂う気まずい雰囲気。

予想外に居心地が悪い。

ここ暫く味わっていなかった不快感にそわそわとホームを見渡すグレイに、エドが声を掛ける。

「なぁ、グレイ」

「なに」

会話は避けたいと思っていたグレイだったが、いつもより低い声にそうもいかなくなった。

出来るだけ普段通りに返事をしてみたものの、やはりどこか硬いのが自分でもよく分かる。斜め後ろを見下ろせば、真剣な光を宿す金色の双眸がグレイを射抜いた。

「お前は友達だ。他人じゃない。だから俺は、お前の事を知りたい。別に秘密を掘り返したいって訳じゃねぇよ。でも、お前みたいに、そこまで無関心ではいられない……と、思う」

「……そうだね」

最後にはぼそぼそと尻すぼみになってしまったものの、言いたいことは伝わってきた。いや、伝わってしまったのだ。だからグレイは、エドを突き放すことが出来なかった。

その一方でエドは、曖昧な返事でも理解して貰えたととったらしい。

「まぁ友達同士、余計な遠慮とか距離感とかは要らないってことだよ。それだけだから、そんな考え込むなって」

そう言って少年が笑うと、あの居心地の悪さは無くなってしまった。思ったよりも、あっさりと。

――俺はどうしたいのかなぁ……

関係の修復に安堵する自分を感じ、グレイは思う。

これを機に、広げた距離を埋めてしまいたいような、もっと広げたいような。

「ぼーっとしてないで、さっさと乗ろうぜ」

「あぁ……うん」

矛盾した複雑な気持ちを押し込めて、汽車に乗り込んだ。




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