アイドルマスター
□雪 の 日 の 告 白
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「静かだな……」
「くぅ〜ん」
いつのまにか、辺りは暗くなり、街灯と漆黒の空から雪が津々と降ってきた。彼と犬美以外は誰も居なくなっていた。
犬美がくしゃみして、冬馬は自分の体が冷えていることに気づいて、歩き出す。
冬の夜の凍てつく風が今だけ心地よ かった。
このあと雪が積もるぐらいに降ると先程ニュースで見て、雪の量も増えてきたなと思ったが、この程度ならば気になるほどでもない。
「……我那覇?」
ふと見かけた見覚えのある黒髪の少女に向かって、彼は少し大き目の声で呼びかけた。
雪が積もった黒髪が雪を撒き ながらわずかに揺れ、響はこちらを振り返った。
「冬馬っ!? や、やっと見つかたぁ〜……うにゃっ!?」
安堵し、響は急いだ足取りで冬馬のほうへと走ったが、路面の雪に足を掬われ、彼女は思いっきり尻餅をついた。
「お、おい大丈夫か、我那覇!?」
冬馬と犬美は急いで響の元に行って、彼女に手を差し出す。
ハム蔵が尻餅をついた衝撃で少し遠い所に飛んでいったらしいが、犬美がすぐに探しに行ったため、冬馬は響の状態を確認に専念した。
痛い、と少し笑ってる彼女をハンカチで服や頭に被った雪を払った。
冬馬のなすがままにされながら、響は、
「ずっと、冬馬を探してたんだぞ」と小さく呟いた。
ピタリ、と思わず冬馬の手が一瞬だけ止まる。しかし冬馬は響の髪を取ると、ゆっくりと払い始めた。
何か、ものすごく恥ずかしいことをされているような気がした。
よくよく考えてみると髪を他人に触らせたのは初め てな気がする。
子供の頃は兄や父に洗ってもらった記憶もあるがそれも遥か遠い頃の話である。いつの頃からだろう、プロデューサーでも異性の人にはなんとなく髪を触られたくなくなったのは。
けれど、むしろ彼には触って欲しいような気がする。
触られているのが、心地よい。
ふと、気づく。
いつのまにか髪を払う彼の手は止まり、反対側の冬馬の手が自分の頬に触れていた。
「と、冬馬……?」
だんだんと自分の顔が紅潮してくるのが分かる。
そのまま二人とも黙ってしまった。自分を射抜くように見つめてくるミディアムカラーの瞳から感じる視線がむず痒い。
「きれいだな……」
呟いてから、冬馬ははっとした。
――何を言っている、俺は!?
完全に頭に血が上ってしまった。もうどうにでもなれと、冬馬は思い切り響を抱きしめる。
彼女は何も言わなかった。
ただ静かに時が過ぎる。まだ濡れている彼女の衣服が自分を濡らすが、冬馬は特に気にする様子はなかった。不思議と、気分が落ち着いてくる。それは、響にしても同じだった。なぜか、安らぐ。
「……冬馬、服汚れるぞ?」
ゆっくりと冬馬の背中に手を回し、目を閉じながら響は呟いた。
「……別に、気にしない」
少し身体を押し戻され、両頬に触れてくる手を感じた。
目を開き、ミディアムカラーの瞳を彼女はじっと見つめた。 どちらともなくゆっくりと顔を近づけながら、二人は目を閉じる。
――初めてのキスは、冷たく、雪の味がした。
重ねられた唇を離したのはどちらからだっただろうか。
顔を真っ赤にしながら微笑んでくる少女に対し、冬馬は同じような真っ赤な顔でぎこちない笑みを返す。
「我那覇」
俺はただ静かに呟く。
「なに?」
自分は微笑んで問い返す。
「……俺は――お前が、好きだ」
激しく脈打つ心臓の鼓動が止められない。
まっすぐに、君の蒼い瞳を見つめる。
「自分も……冬馬のこと、好きだよ」
当たり前のように、自分は応える。
君の手を握る。
「俺は、お前を幸せにできるのか?
お前の仲間を傷つけた俺に、お前を好きになる資格はあるのか?
ただお前の傍に居ることだけで満足できなくて、お前を手に入れたいと願う俺は貪欲か?そんな俺が恐い。――でも……それでも、
俺は、お前が好きなんだ……」
気がつけば、泣いていた。
人前で泣いたのは、何年ぶりだろう?
弱さを見せる事ができなくなったのは、強くあり続けようと切に願ったのはいつからだったか? 961プロに入る前だったか、それとも、もっと前だったか……
そんな冬馬を響は優しく、いつも飼っている動物達にするような感じで囁いた。
「……資格があるとかないとかはうまく言えないけどさ……。冬馬と一緒に居て、好きでいることはできるから。自分も冬馬が辛くなったら、支える事ぐらいはきっとできると思う。できなかったら、できるようになってあげる」
だから、泣かないで。
ミディアムカラーの瞳から零れる涙が切なくて、そっと君の涙を拭う。
自分は君を抱きしめる。