アイドルマスター

□雪 の 日 の 告 白
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「冬馬〜今、暇か〜♪」
 
 目で活字を追っていると、不意に頭上から声が降ってきた。読んでいた本から目を離すと、
 逆さまで笑う少女が見えた。
 浅葱色に輝く大きな瞳と全体的に丸い顔立ちが、彼女を幼く見せている。
 顔に落ちてくる彼女の薄い黒髪を払い、彼は上半身を起き上がらせた。

「……何か、用か?」

 欠伸をしてから、天ヶ瀬冬馬はぶっきらぼうに聞いた。

「あのさ、さっき春香から聞いたんだけど、今日、商店街のほうでパレードがあって、盛り上がってるんだってさ♪」

 765プロのアイドルの我那覇響はにっこりと微笑んだ。
 ――もしかして、これは『一緒に行け』と言う事だろうか……?
 片手を差し出してくる響を見て、冬馬はむぅと唸ってみせた。
 もしかしなくても、きっとそうなのだろう。
 冬馬はベッドに座ったまま軽く伸びをすると、響の手を取って立ち上がった。






「ちっ、来て早々いきなりはぐれんなよな……!」

 苛立ちを口にしながら呟いて、冬馬は片手に袋を抱え、もう片方に犬美のリードを持ちながら、ぐるりと辺りを見回した。
 商店街で行われたパレードは冬馬の想像以上に盛り上がりを見せていた。
 趣味のストリートパフォーマーに見せられる者やら、フリーマーケット気分で店を広げる者やらも多く混じってい る。
 このような日に規制も何もあったものではない。
 商店街の中央にある噴水の方を見やると、男が三メートル近くはあろうか竹馬に乗りながらジャグリングをしているのが見えた。
 食い入るようにそれを見詰める観客達を一瞥するが、響らしき者の姿はない。
 探し始めてどのぐらい経っただろうか。おそらく、一時間ほどだろう。
 この辺りに居る――とは思う。
 たしか、アクセサリーを売っていた露店で品定めをしていた彼女から少し目を離した間に、彼女の姿は消えていた。 しかし、響自身がここではぐれた事に気づいているかはどうかは分からないが。
 はぁ……。
 本日何度目かの溜め息を吐きながら、冬馬は近くにあったベンチへ腰掛けた。抱えた袋から昼食代わりのサンドイッチを取り出し、犬美にもハムをわけてやりながら自分も一口。
 近くの出店で購入したにしては、まあまあの味だ。
 
 と、そこで、犬美が何かに感づいたように視線を上げた、冬馬も犬美の視線に連れられてみると、ベンチから百メートル近く先、見覚えのある黒髪が風に揺れている。
 黒髪自体はそれほど珍しいものではないだろうが、響の持つ黒髪は普通の黒髪とはどこか違っていた。おそらく、沖縄という日本人とは違う地域同士の髪が交じり合ったために少し普通とは異なって色になっているのだろう。
 揺れている髪の色は、響のそれとよく似ていた。
 紙袋とサンドイッチ、リードをそれぞれの手に持ちながら、冬馬はベンチから立ち上がった。人波を避けるようにすり抜け、彼は響らしき人物の近くまで歩み寄る。
 はたと、そこで冬馬は足を止めた。
 距離にしては五メートルほどだろうか。こちらに背を向けているが、横を向いているおかげで顔をはっきりと確認できる。

 間違いなく、響である。

 しかし――

 彼女の隣に居るのは、誰なのだろう?
 765プロのプロデューサーによく似た、全体的に温和な雰囲気を纏った“彼”は、響と同じ海のような浅葱色の双眸を持っている。
 整った顔立ちは、男性で彼はどことなく、765プロのあのプロデューサーに近い雰囲気を見せていた。
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