アイドルマスター
□雪 の 日 の 告 白
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――ポンポン。
「あっ、冬馬!? あれすごくない……――?」
肩を叩かれた響は、少し興奮気味のまま振り返った。
が、そこに居たのは彼女が予想していた人物ではなかった。
その人物は響よりも軽く頭一つ分は背が高い。
彼女の兄のようなアクアマリンを彷彿とさせる、澄んだ浅葱色の双眸。
呆然と、響は彼を見上げた。大きな蒼い瞳を瞬かせ、頭に乗ってるハム蔵と一緒に軽く首をかしげる。
「響……だよな? 仁科俊行だよ。……俺の事、覚えてるか?」
青年――仁科は、自分を見て目をぱちくりとさせる響に向かって、自分を指差してみせた。
「仁科って……。俊兄ちゃん!? ――なんでここにいるの!?」
大きくリアクションを取る響とハム蔵に、仁科は満俗そうな笑みを浮かべる。
「二年ぶり、ぐらいだな、この間、沖縄には帰ったんだけどな、ハム蔵、お前も元気そうだな――立ち話もなんだな……
何か買ってくるから、あっちのベンチで座ってな」
と、言われ、響は仁科の指差したベンチに腰掛けた。
響は辺りをハム蔵と一緒にきょろきょろ見ながら冬馬と犬美を探した。さきほどすぐ近くに露店に居たようだったが、その姿は今はない。
一瞬、探しに行こうかとも思ったが、仁科が居る手前、それもできない。
心配ではあるが、彼も子供ではない。たぶん、大丈夫だろう。
「響、温かめのジャスミン茶だ。これで良かっただろ?」
コクリと頷き、響は手渡されたジャスミン茶を口にした。
一口飲んでから、彼女は財布から代金を取り出そうとした が、隣に越しかけた仁科に止められた。
「気にすんな、奢りだよ。こういう時は男が払うものだ」
「そう? んじゃ、遠慮なくご馳走になるさ〜」
互いに笑い、ジャスミン茶を啜る。
「沖縄を家出紛いなことをしたことはお前の兄貴から聞いて、どこに行ったかと思ってたが、まさか東京に居たとは
な。動物と自然が好きなお前が……お前の行動力は驚き物だな、まったく」
「まぁ、自分も色々あってな……けど自分、今じゃ765プロでアイドルやってんだよ♪」
「え、それじゃ、CMとかで似てるなぁ見たことあったが、あれ、響なのか!?」
「はいさーい!あれ、全部自分なんだよ」
「昔からアイドルになりたいって言ってたからなぁ、お前は……なんだかんだで、俺のほうも今じゃそれなりと夢に近
づいてるよ」
「そう言えば、俊兄ちゃん獣医になりたいって言ってたね」
響は足を動かしながら上を向いて、仁科が昔自分に語った夢を思い出してた。
「……正確に言えば獣医じゃなくて障害もち動物の介護の仕事なんだけどな。まあ、獣医もしてるようなものだし、夢
が叶ったと言えば叶ったかな」
「じゃあ、夢が叶ったんだね、俊兄ちゃんも…」
どこか照れたような――それでいて苦笑いのような笑みを浮かべて言う仁科に、響はまるで自分の事であるかのように
嬉しそうに言った。
「……そうか、それはそれはめでたいことでなによりだな」 「わんわん!!」
不意に後方から聞こえた声に、頭より先に身体が反応した。
思わず噴出したジャスミン茶でむせ返り、涙目になる響の背中を、冬馬は無言でさする。
「と、冬馬、それに犬美も……っ!? いつからいたの!?」
険悪な雰囲気を堂々と出してる冬馬を歯牙にも掛けずに仁科は「お、犬美、またでかくなったな」と犬美の頭を慣れた手つきで撫でていた。
犬美もそれにはご満悦のようであったが、冬馬はそれに気にせず問いに答えた。
「『沖縄を家出紛いなこと』の辺りだ。――自分から誘っておきながら俺をほったらかしにしたのはまあいいが、まさか男とデートとはな……」
低い声で言って、冬馬は半眼で犬美を撫でている仁科を睨み付けた。
「おいおい? 嫉妬か? 男の嫉妬ほど見苦しいものはないぞ?」
嘲笑うかのような笑みを浮かべ、仁科は言った。
おろおろと自分と冬馬へと交互に視線を走らせる響に向かって、仁科は冬馬を指差しながら聞いた。
「ところで、こちらの方は?」
「天ヶ瀬冬馬だ。我那覇の彼氏だ」
響が紹介する前に、冬馬は自分で名を名乗った。
「…………」
「…………」
沈黙。
気まずいと云うか、険悪と云うか――そんな雰囲気が辺りに流れる。
街の喧騒が、随分と遠くに聞こえる。
「……じ、自分、冬馬の分、買ってくるさ!」
無理矢理沈黙を破り、響はさきほどジャスミン茶を買ってもらった露店に向かって一直線に駆け出した。
「――あいつ、いい子だとは思わないかい?」
走り去る響を見て、仁科はぽつりと言った。
「それはお人よしと言う意味か?」
「……まあ、好きなように受け取ってくれ。――ところで、お前、何か職は?」
「未成年だ、バイトは一応はやっている」
即答する冬馬。ふーん、と仁科は呟く。
そこで、沈黙。特に理由もなく、会話は途切れた。
「俺は」
ぽつりと仁科が漏らした。
「俺はあいつに好意はあるよ」
「…………」
冬馬は何も言わない。
一瞬だけ冬馬を見てから、仁科は言葉を続ける。
「――お前は“彼女”を幸せにできるのか?」