アイドルマスター

□キスの気持ち
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「北斗さんは、キスをするのが好きですよね?」

 突然の発言に、今まさにキスをしかけていた北斗は固まった。
 わずか数ミリの隙間を残して、北斗はまじまじと真を見やった。
 真の方は至って平然としている。

「え、と、真ちゃん?」
「はい?」
「どういう意味かな、それ」

 もしかして、嫌だったかな、いや、それは、そんな。
 徐々に北斗はうろたえていく。
 しかし、真はあっさりと答えた。

「そのままの意味ですけど……?」
「……」

 ますます困り果てる北斗は、ひとまず、真から距離を取った。

「とりあえず、どうしてそう思ったか聞いていい?」
「どうして、ですか?」
「そう、どうして?」

 北斗は軽く小首を傾げた。

「え〜と……。北斗さんの顔を見たら、なんとなく、そう思いました」

 思わず、北斗は自分の顔に手を当てていた。そして、恐る恐る問いかける。

「…あのね、真ちゃん?」
「はい?」

「真ちゃんは、嫌? その、こういうの」

 肯定されたら、恐らく立ち直れないだろうと北斗は怯えた。
 しかし、真はきょとんと蒼い双眸を瞬いた。

「いいえ?」
「……本当に?」

 重ねて問う北斗に、真はくすりと笑った。

「はい、僕は本心で言ってますよ」

 真に笑われた北斗は心持ち視線を逸らして、咳払いをする。

「だったら、いいんだけどね……」
「すいません、驚かせてしまったみたいですわね」

 くすくすと鈴を転がしたような笑い声は朗らかで、偽りの色は欠片もなかった。

「だって、あのタイミングで言われたら普通驚くよ」

 遠まわしな拒絶とも受け取れかねない。

「え、そうなんですか?」

 北斗の意見に、真はきょとんとした顔になった。

「すみません、そんなつもりはありませんでした」

 そうして、困惑している真をじっと見つめ、北斗は不意にくちびるを掠めるように奪う。

「……っ/////」

 瞬時に、頬を朱に染める真とは対照的に、北斗は吹っ切れた様子で口を開いた。

「まあ、確かにね、真ちゃんとキスするのは好きだよ」

 心なしか、「真ちゃんと」の部分が強調されているのに、気づいて、真はますます頬を朱に染め上がった。

「……ほ、北斗さん?」

「たった一瞬で、それこそ無限大の幸せが来た感じになるしね」

 にこりと微笑む少年の顔は先ほどまで狼狽していた人物と同じとは思えない余裕に満ちていた。
 そんな様子に、真は羞恥を越える悔しさを覚えた。反撃の糸口を探して、目まぐるしく思考を巡らす。

「……北斗さん」

 不意に呼びかけ、北斗の注意を引いた、次の瞬間。
 唐突に、真は北斗の襟口を掴み、引き寄せ、自身も背伸びして、唇を重ねた。

「!?」

 北斗は目を見開いて、固まった。
 大抵の場合、アプローチをするのは北斗の方だ。
 それが真から、しかも、触れるだけなんていう生易しいものではない。
 思考が沸点に達する。
 交じり合う熱に、侵食される。
 わずかに零れる呼気の、溶け合う吐息の甘さに全身が震えた。

「……」

 北斗を動揺の真っ只中に突き落とした真はおもむろに離れて、ちらりと時計を見やる。

「…一分」
「え……?」

 いまだ衝撃から立ち直れない北斗に、真はニッコリと笑った。
 紅潮した頬は羞恥か、それとも別の理由なのか。
 北斗は真の綺麗な、艶めいた色をほのかに帯びた微笑に見惚れた。

「一瞬で、無限大でしたね?一分はどうでしたか?」

 数瞬の空白の後、北斗はがっくりと肩を落として脱力した。

「ま、真ちゃん……」
「はい、何です?」
「真ちゃんって、負けず嫌いだったね……?」
「はい、大の負けず嫌いです♪」

 真は朗らかに笑い出す。

「僕も、勝負に負けっぱなしも嫌ですから///」

 そして、真は少し泣きそうな感じで見上げてくる北斗に笑いかけた。

「前に北斗さん、「恋愛は勝負事」って言ってましたよね?」

 動じない真に、北斗は小さく溜め息を吐いた。

「勝負強さは真ちゃんの得意分野だもんね……」
「駆け引きは北斗さんの方が上かと思います」

 真面目に答える真に、北斗は笑みを零した。
 そのまま、軽く真の額にくちづける。

「北斗さん?」

 北斗はにこりと微笑みかけた。

「真ちゃんがその気なら、手加減しないでいくから」
「え?」

 ニコニコと微笑む顔がひどく楽しそうに嬉しそうに、輝いて見えるのは気のせいだろうか。

「言っておくけど、勝つまで止めないからね」
「は!?」
「大丈夫、延長戦は望むところだからさ♪」
「ほ、北斗さんっ/////」

 そして、北斗は真の腰を引き寄せ、互いの顔の距離がわずか数ミリとなった状況で、決戦の火蓋を切る笑顔を浮かべた。





「でも、最後に勝つのは俺だけどね♪」

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