中編3

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その歪な体は嫌な音を立てて変化し、正しい人型となる。
きょろりと自分の体を見る目は刑部とよく似た反転した色だ。


「こんなもの?」


そう言ってボロを履いで体を見せると、珍しく刑部は狼狽えたように小さく声を飲んだ。


「ぬし、女子であったか」
「さあ、我らは集合体だからね。性別というのはないんだよ。ただ母体である死体がもともと女だったってだけだね」


あっけらかんとそう言ったことに、前途多難を感じる刑部。
しかし今更でもあったし、性別など不幸を降らすことの前には無意味だ。


「さて、では行くか。輿に乗りやれ」


ふよふよと漂うそれの高さを下げてそう言えば、彼女は目をぱちくりとさせた。
一欠片さえも、そんなことを言われるなど思ってはいなかったのだろう。


「痛みなど感じないよ?」
「それは主だけよ。普通の人間は感じる。ぬしをそのまま歩かせるにも距離もあるしのう」


そういった彼はまるで人間味しかなくて、クルクルと喉で嗤う彼女を楽しませていた。
不幸を笑うというよりは、少ない幸福を悲しむ人のように感じるその様は、なんてったって彼女には滑稽であった。

***

本拠地に付けば、刑部を見る人の目があからさまに変わる。
差別という線引きの目。
それは凡人と価値のある人というだけではなく、普通とそれ以外を線引きしたものでもあった。


「大谷様、そちらの娘は」


兵の一人がおずおずと問いかける。
すると刑部は包帯で巻かれた手を彼女の頭に乗せると、ゆるりとその髪を撫でた。


「同胞、同士、我が半身。まあ、どれであっても同じか」


適当な事を言う刑部。
その様にクツクツと笑う彼女に、兵はぞわりとよくないものを感じた。


「それは失礼致しました。先程三成様がお探しでしたので、一度そちらへお伺い願います」


そう残して下がる兵は顔を真っ青にしていた。


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