飛び降り指揮者
□私と私
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”私のお兄ちゃんを返して!!!”
人格が違うのに、好きになる人は一緒だった。
もとから決まっていた物語のように。
『翠・・・・奏蓮は、妹を愛してた。そう聞いていた。私が奏蓮の妹なんて、私は知らなかった。奏蓮は知っていたのかもしれない。だけどっ!!今は奏蓮じゃない!翠なんだよ。翠は私を好きになってくれた。吸血鬼じゃない、今の人格の私を・・・・
『貴方が言っている、愛しいお兄ちゃんは奏蓮でしょ?今は翠なんだよ?もう、此処に奏蓮はいないのよ!!!』
奏蓮は確かに妹を愛していたかもしれない。
だけど、翠は私を好きになってくれたんだ。
たとえ、同じ体でも・・・・血は一緒でも。
”お兄ちゃんはもう・・・いないの?奏蓮お兄ちゃんは・・・・”
目の前の私が泣く、信じられないとでも言うように。
『この世界に来てからは、貴方が私の人格だったね。自分を見失いようだった。』
この世界に来てからは、あんなに美味しい血は知らなかった。
妖怪だって、何もかも違う場所だった。
翠に出会ったのは偶然じゃないかもしれない。
私を・・・・元の私の記憶を引き戻すために仕組まれたのかもれない。
体は一緒なのに、中身はこんなにも違う・・・!
『吸血鬼の自分と一緒になれば、奏蓮も翠も愛せる。このまま別の人格のままじゃ・・・・どっちかが、暴走する。そのくらいはわかるでしょ?』
此処は私の居場所じゃなかったから。
人格が一つになれなければ・・・・
『もう、いっか。私を眠らせて・・・・』
まだ、幸せのまま眠りたい。
私が幸せになるのが【罰】なら、人を傷つける前に、眠りたい。
”分かった。人間のおねえちゃん。”
目の前の私の目が赤くなる。
『ありがとう。ブロードの王女』
吸血鬼の私は、私の首筋に噛み付く。
首筋に食い込む異物の感触。吸い出されるようなぐらっとする感じ。
視界がぐらついて、体も言う事聞かなくなって。
翠・・・・愛してた。ありがとう。