飛び降り指揮者

□私と私
5ページ/5ページ



”私のお兄ちゃんを返して!!!”



人格が違うのに、好きになる人は一緒だった。
もとから決まっていた物語のように。



『翠・・・・奏蓮は、妹を愛してた。そう聞いていた。私が奏蓮の妹なんて、私は知らなかった。奏蓮は知っていたのかもしれない。だけどっ!!今は奏蓮じゃない!翠なんだよ。翠は私を好きになってくれた。吸血鬼じゃない、今の人格の私を・・・・



『貴方が言っている、愛しいお兄ちゃんは奏蓮でしょ?今は翠なんだよ?もう、此処に奏蓮はいないのよ!!!』



奏蓮は確かに妹を愛していたかもしれない。

だけど、翠は私を好きになってくれたんだ。


たとえ、同じ体でも・・・・血は一緒でも。



”お兄ちゃんはもう・・・いないの?奏蓮お兄ちゃんは・・・・”



目の前の私が泣く、信じられないとでも言うように。



『この世界に来てからは、貴方が私の人格だったね。自分を見失いようだった。』


この世界に来てからは、あんなに美味しい血は知らなかった。
妖怪だって、何もかも違う場所だった。


翠に出会ったのは偶然じゃないかもしれない。
私を・・・・元の私の記憶を引き戻すために仕組まれたのかもれない。




体は一緒なのに、中身はこんなにも違う・・・!




『吸血鬼の自分と一緒になれば、奏蓮も翠も愛せる。このまま別の人格のままじゃ・・・・どっちかが、暴走する。そのくらいはわかるでしょ?』



此処は私の居場所じゃなかったから。
人格が一つになれなければ・・・・




『もう、いっか。私を眠らせて・・・・』


まだ、幸せのまま眠りたい。


私が幸せになるのが【罰】なら、人を傷つける前に、眠りたい。




”分かった。人間のおねえちゃん。”




目の前の私の目が赤くなる。

『ありがとう。ブロードの王女』

吸血鬼の私は、私の首筋に噛み付く。

首筋に食い込む異物の感触。吸い出されるようなぐらっとする感じ。



視界がぐらついて、体も言う事聞かなくなって。





翠・・・・愛してた。ありがとう。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ