飛び降り指揮者
□実験室と探し物
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周りが灰色の壁の色で、壁全体に貼り付けたようなモニター、電気はさほど、明るくなく、モニターの光で部屋が明るくなっているような部屋だ。
生活感ゼロなその一室にソファーで寝ている男とその前に立つ女、またそれを傍観のように見ている男がいた。
「──・・・ん」
誰かに呼ばれている気がする。
「──い・・・ん」
まだ、目を開けたくないんだけど。
「おきろぉおおお馬鹿翠ぃいいい!!!」
バシィィィイイン!
「ってぇぇえ!!」
あまりの急な痛さに、声で出た。
目を開くと、おかっぱで黒髪の女性が右手にティッシュ箱を手に持って立ってきた。
え?アレで殴られたんですか、俺。
ティッシュ箱の角はへこんでいて、たぶん俺の頭を殴った痕だと認識した。
どうりで痛いわけだ。
「やっと起きましたか。楼(ろう)、翠が起きましたので、私はこれで。」
彼女は、後ろを振り向き、楼と呼んだ男に声を掛け、すたすたと歩いて、部屋のドアから出て行った。
って、謝りもしないのか・・・。
「おはよ。翠」
彼女がいなくなった後、楼と呼ばれた男が、翠にピースをしながら、話しかける。
楼は髪の毛は黒髪で目は細く釣り目、髪の長さは、肩より下ぐらいで、翠と同じ妖怪だ。
「あぁ、楼、朝から災難だよ。」
「だって、翠ちゃん仮眠するっていいながら、本気で寝てるんだもん。」
「その話し方やめて、気持ち悪い。」
翠は手で頭を抱えながら、目を瞑った。
「ふふ、で、実験結果でたよ?」
「結果・・・あぁ、本気で寝ていたようだな。俺」
まだぼーとする頭を左右に振り覚醒させていく。結果という言葉がすぐに理解できなかったことで、寝ていたと確信した。
「なぁ、翠。」
「ん?」
「お前、なんか悲しい夢でも見てたのか?」
めずらしい、彼が心配するなんて。
「いや、別・・・に・・・?」
彼が心配してくることは、一度もなかったのに。と思って、まだ覚醒しない目を擦ったら、濡れた。
「ん?何これ・・・。」
何度拭いても目から出てくるものに吃驚した。
「寝ながらずっと泣いてたんだよ。お前が泣くとこなんてみたことねぇっから、こっちが焦ったぜ。」
溜息つきながら言う楼は煙草を懐から一本出し、口に咥えた。
「止まんないんだけど・・・・。」
拭いても拭いても止まらず流れる涙に疑問しか出てこない。
──”おにいちゃん”
急に頭の中でその単語が響いた。
あぁ・・・・・分かった。
「夢のせいかな・・・・。」
涙を拭きながら、下を向いて呟く。
「なんの夢見たんだ?」
「妹の。愛しくて愛しくて、でも顔も名前も分からない妹の夢だ。」
「あー。前言ってたなそんな事。
翠って昔の記憶ないんだよな。
でも、名前も知らない、顔も覚えてない妹が大好きなんだよなーこのロリコン野郎」
「うっせ。」
ソファから降り、楼から煙草を一本貰ってまた、ソファに座った。
「でもあれだろ?妹ちゃんのためにこの研究室で働いてるんだっけか。」
「そうだ。妹に会いたいんだ。本当に愛してるから。」
「うっわーロリコン翠とか本当に気持ち悪いんだけど。」
笑いながら、言ってくる楼にイラついて、靴を顔面狙って飛ばしてやった。
おっ顔面ナイスキャッチ!
妹の存在はなぜか、大きくて、顔も名前も知らないのに、本当に愛しくて。
この研究室に入って妹を探した。
だって、ゆういつ妹を探す鍵になるから。
この研究室で3年ぐらい探してるけど、生存してるのすら分からない。
見つからないといったところか。
でも諦められなくて、ただ、妹について分かっていることは、
同じ”吸血鬼”だってことだけ。