飛び降り指揮者

□少女と異世界
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真夏絶頂日。


狂いだしそうな夏の朝日を今日も迎える



部屋は、足場がなくて、リビングに行っても、温かいご飯なんかなくて、目の前に散らばるのは割れた皿。
エアコンは電源が付いてるのかと、見れば、あぁ、コンセントが壊れてる。
どうりで、もやっと感が抜けないわけだ。

また、あの人暴れたんだ。


「ってぇ。」



床に散らばったガラスの破片が、足に刺さり血が出る。



絆創膏どこだっけ。


床に正座してぶつぶつ何かいいながら座ってる母さんに絆創膏の在り処を問う。







『母さん・・・。』



「ひぃっ来ないでッ来ないで殺されるッ!」



ねぇ、母さん。
誰を見て殺されるって言ってるの?

誰を見て怯えてるの?




あぁ、私か。


ただ、絆創膏聞いただけなのに。



母さんの中の私は、どうなっちゃったんだろうね。



父さんが、母さんを殺そうとした時があって、顔が似てるから私も怖いのかな。

でも、父さんもう警察行ったじゃない。
まだ怖いの?

それか、私がへんな能力もって生まれてきちゃったからかな。





「母さん。いままでどーも、生んでくれたこと、感謝してるよ。」


なんて、嘘だけど。


「紀李?」



久しぶりに、かすれた声で私の名前を呼ぶ母さんの声が聞こえたけどもう無理なんだよ。止まらない。





あぁ、死のう。


死んでしまえば良いじゃないか。




でも、死んでしまうのは、私だけじゃない。




「ごめんね。私の中の子供・・・。」




お腹を優しく撫で、この住んでいるマンションの屋上へと、足を進めた。



結構高さがある。


お腹の子供のためにと、我慢していた煙草を一本だして、火をつける。



久しぶりの肺に入れる感触にとてもすっきりした気持ちになった。





でも、その前に生きることをやめよう。

本当はこの子を生かして置きたかったけど。



もし、生まれ変われるなら、幸せな環境で育てたいな。



たとえ、誰の子かもしれない子供だとしても。



目をとじて、身を投げ出した。



落ちている空気圧で、呼吸がうまく出来ないけども、それでもいいと思った。



「ごめんッなさいッ」


最後に呟いた言葉は、本当に微かでまた顔も見たこともない、今まで生きる希望となっていた、お腹の子供に伝えた。





14歳の少女。

今、飛び降りる──
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