襟足のアメピン

□出発
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この一週間。

特訓はどんどん厳しさを増していくし、俺も準備に追われていた。




両親は、
「急なことだけど頑張って」って。





ことは3ヶ月前・・・いや、半年前、もう1年前かな・・・?

それぐらいから始まってたから、全然急なことなんかじゃないのに。




潤さんたちは、なんて説明してくれたんだろう。








・・・あの人の考えていることは、きっと俺には理解できない。










「『蒼』が居る学校は『壱要男子高等学校』。男子校だ」

「全寮制のね」










「・・・・・・は?」



イチヨウダンシコウトウガッコウ?


ちょっと待て。

カナに成りきるための男子制服じゃなかったの?

学校自体がそもそも男子校って詐欺じゃない?




男子校ってことは、俺は性別を偽って行くってことだろ?

つまり、書類偽装とか・・・


「理事長がシンフォニアのOBだから心配ねぇ。無理言ってお前を入れさせる準備しといた」



カナが申し訳なさそうに説明してくれる反面、潤さんはにこにこと嬉しそうだ。



「期間は君の卒業まで。リタイアは無し」


「まるでゲームみてぇに言ってくれんじゃねぇかよ」





もう敬語はやめた。

潤さんは、そんな敵意むき出しのときは優しそうな表情をする。



「リタイアって何を意味してるかわかる?・・・それは『此処』に戻ってくること、そして『死』」




「それだけは絶対に許さない」














潤さんも、もしかしたら過去に何かがあった悲しい人なのかもしれない。
















「俺は死なねぇ。
 人間そう簡単に死ねねぇよ」




いつかカナに言われたようなことと、似たような言葉を吐き出す。



でも全く意味は違う。





カナが言ったのは「死なない」。

俺が今言ったのは「死ねない」。





逃げたくても無理なんだよ。








自殺してった人間が強いとかそんなことを思うわけじゃない。

むしろ逃げたんだから弱いだろ。




だけど生きてる奴らだって弱い。







逃げることも出来ないから。







だから懸命に生きる。

その姿は強い。









・・・どう考えても矛盾してるな。


ああ、もう訳わかんね。








「ゴチャゴチャ考えんのはめんどくせぇ。行くわ」













完全に昔の口調に戻ってしまった今。







次、社会に出るとき口調を矯正するのは難しそうに思えた。
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