One Way
□1.はじまりの季節
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4月─
始まりの季節─
「日番谷くん!」
そう呼ばれ、銀髪の少年はゆっくりと声のした方を振り返った。
息を切らしつつ急いで自分の所へ走ってくる少女が見える。
「おぅ雛森」
今日はこの二人、日番谷冬獅郎と雛森桃が新学期から通う高校の、仮入学の日だ。
冬獅郎にとってそんなものは退屈以外の何物でもないのだが、一つだけ嬉しいことがある。
桃に会えることだ。
「今日やっとクラスわかるね!日番谷くんは何組がいい?」
桃が一つの団子に結わえた髪を揺らして、冬獅郎に問う。
「んなもんどこでもいいじゃねぇか……」
いつものようにサラリと流すように言う。
でも桃は、また明るく話しかけてくれる。
冬獅郎はそんな時がとても好きだった。
冬獅郎と桃は、同じ町内に住む所謂幼なじみというやつだ。
互いの癖だって、恥ずかしい思い出だって、知っている。
そんな『幼なじみ』という単語がぴったりの二人だが、実は冬獅郎はずっと前からひそかに桃に思いを寄せていた。
ずっと前、といってもそれがいつとは断定できないけれど。
冬獅郎自身でもよく分からないうちに、桃に引かれていたのだから…。
でも、彼女に思いを告げようと思ったことはなかった。
ただの一度も、なかった。