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□紅のセカイ
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今日も夕日は、紅。
灰色でもなく白色でもない、なんとも形容しがたい色をしたこの空に、たった一つ浮かぶ紅色。
少し不気味にも見える。
でも。
寂しい色だ、と。
目を閉じて、そう思った。
紅のセカイ
彼が、一緒に歩いていた仲間に手を挙げてさよならを言う。
あたしはそれを、遠くから見ていた。
仲間が遠ざかって見えなくなるのを確認して、彼はやって来た。
「よ、モモ。」
今度はあたしに手を挙げた。
「こんばんは。」
あたしは水から出て、彼が今座った岩の隣になんとか腰を降ろした。
「…お前、わざわざ水から上がってこなくてもいいんじゃねえか?」
彼があたしを見て言う。
「平気。こっちの方がいいもん。」
あたしは彼の澄んだ眼を見つめて、もう一度座り直した。
頬にあたる夕風が、心地よかった。
…あたしは、人魚。
人魚って生き物は、本来陸の世界とは隔たった場所で生きて、朽ちていくはずのもの。
本当は人間と、深く関わってはいけない。
…だけど、あたしは、
彼と出会ってしまった。