presents

□紅のセカイ
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その時、彼が静かに言った。

「待てよ」

いつもの特等席から彼が降りるのを感じて、振り返る。
すると、彼があたしの手を取った。

「好きだ、モモ。」

そう言われ、抱きしめられる。
胸がドキン、と大きな音をたてた。

「行くな」

彼の声、彼の温もりが、ゆっくりとあたしのマヒした脳に溶け込んでいく。
我慢していた涙が、静かに零れた。

「…本当、に…?」

あたしは思わずしゃくり上げて、言った。

彼の言葉が信じられなくて。
でも、もうこの気持ちは止められなくて。

「本当に…シロちゃん
のそばにいても、いいの
…?」

「ダメなわけあるか」

彼が腕を緩め、あたしの顔を覗き込んだ。

「側に、いてくれ。」

その時、沈みかけた夕日が光を増すかのように輝いた。

紅い、色。

「…ねぇ、シロちゃん」
あたしは、顔を涙でぐちゃぐちゃにしたまま訊いた。
「シロちゃんには…あの色は、どんな風に見える…?」

ずっと訊きたかった、
彼の答え。
すると、彼は即答した。

「モモみてえだな」

「…ふえっ?!」

予想外の返答に、あたしは目を見開く。
それを見て、彼は照れくさそうに言った。

「いつも寂しそうなくせに、明るくて暖かくて……キレイだ」

その言葉にまた溢れ出した涙を拭って、あたしは顔を紅く染めた彼に微笑んだ。


「ありがとう、
 シロちゃん。

 大好き、だよ。」











fin


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