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□紅のセカイ
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「…今日も楽しいこと、あった?」
あたしは夕日を見て、言った。
「…別に、何も。」
そう言われて、彼を見た。
彼も、夕日を見ていた。
「シロちゃん、いつもそうだね」
何もなかったわけじゃないのに、いつも彼はこう言う。
あたしは眉を下げてフフ、と笑った。
なんだか、悲しかった。
彼にはあの紅がどんな風に見えているんだろう、と思った。
あたしは、彼と出会ってしまった。
毎日同じ時間に現れて、去っていく人。
いつもたくさんの仲間に囲まれて、楽しそうに笑っている人。
決して好きになってはいけない人、だったのに…。
月が出て、水面に反射した光が帯をつくった。
辺りはシンと静まり返り、そこに一人残されたあたしは、静寂の中でゆっくりと水の中を覗き込んだ。
そこに映るはずのあたしの影は、輪郭だけがかろうじてぼんやりと浮かぶだけで、今にも消え入りそうだった。
人間を好きになること。
それは、人魚にとって最大のタブー。
それを一度破ると、その恋が百日で実らなかった場合、人魚は泡となって消えてしまう…
そして、明日がその期限の日、百日目だった。