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□紅のセカイ
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夕刻。
彼はいつものように仲間と別れて、あたしの元にやって来た。
「よ、モモ。」
いつもと変わらない、
挨拶。
「こんばんは」
いつもと変わらない、
横顔。
でも今日の夕日は泣いてるみたいに、紅が滲んでいた。
あたしは深く息を吸って、言った。
「あたしね、今日はシロちゃんに、さよならを言わなくちゃいけないの」
すぐ横に座る彼の顔が、見れない。
風が一際強く吹いた。
「ずっと前から言わなきゃって思ってたんだけど…なかなか言い出せなくて…ごめんなさい」
草のこすれる音が、辺りを満たした。そしてそれが止むと、彼が口を開いた。
「どこかに行くのか」
彼の声がいつも通りに響いて、泣きたくなった。
「うん。ずっとずっと、遠いところに。」
あたしは、水面を覗き込んだ。
そこにはもう、あたしの影はぼんやりとも映らない。
もう、会えない。
――でも。
「…あたし、行くね。」
あなたを好きになったこと、後悔なんて、してないよ。
「ありがとう、
シロちゃん。」
あたしは、震える尾鰭を水にそっと浸した。
最期の瞬間(とき)の訪れを知らせるかのように、鰭は一瞬透き通って、水に揺らめいた。