家宝
□一番最初の恋心
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外を見れば、もう白い雪がちらついていた。
今年も残すところあと少しとなった。
家族はみんな田舎に帰ってしまったし、俺は家で一人静かにテレビを見ながら年を越すんだろう――。
「おい見ろよ風丸!外に人いっぱい出てるぞ!」
一人、静かに…。
「…なんで当たり前のようにいるんだ」
「え?いや、年越すのひとりじゃつまらないだろうと思って」
キョトンとしながらこちらに顔を向けているのは紛れもなく俺の幼なじみで、まあ、一応、俺の…恋人、だ。
何か改めて言うのはけっこう照れるな…じゃなくて!
俺は隣ではしゃいでる円堂を静かに睨みながら、こっそりとため息をはいた。
はじまりはちょうど二時間前のことだった。
風呂にも入り終わって特になにもすることがなかった俺は、部屋に戻ってテレビを静かに見ていたんだ。(テレビはまあ、紅白でもガキ使でも好きな方を思い浮かべて欲しい)
ちょうど番組の盛り上がりは最高潮。やっぱり年末はこうじゃないとな、とひとり満足げにサッカー雑誌を取り出したその時――
「かっぜまるー!一緒に年越そうぜー!」
窓の外から、大量の餅を持っている幼馴染の姿があった。
「お前、おばさんには何か言ってきたのか?」
「ああ言ってきた!そしたら餅ついたからもってけって言われてさー」
こんなにいらないよなー、とけらけら笑う円堂を尻目に、俺は部屋にある白い物体を運び出すことに苦労していた。
…部屋の三分の一をも占める、大きな白の塊。
それこそが、今の俺を苦しめるものだった。
円堂はこの大きなもちの塊を、今は発揮してほしくなかったキーパーの馬鹿力でうちに運んできた。しかも俺の部屋に。
「風丸はいい子だから特別大サービスだってさ」
「(おばさん…愛が重いよ)」
そんなこんなで計二時間。俺たち二人はこのデカすぎる餅を片付けるという、なんとも大晦日らしくないことをしていたのだった。
まあ、もちが重すぎるは円堂は直ぐにサボるはで、片付いてるとは言えないけど。
「ほら円堂、さっさと手と足を動かせ」
「えー今日大晦日なのにもち運ぶとかおかしいだろー!」
「そのおかしい原因はお前が持ってきたんだろ!」
「だってかあちゃんが男の子はこのくらい食べなきゃって」
「おばちゃんの餅美味しいんだけどな…さすがにこんなには食べれないよ」
「あー風丸小食だしなー」
「…なんでそれを知って持ってきた」
笑いながらもサクサクと持っていく円堂のおかげで、しばらくサヨナラだった部屋の床が小さく顔を出した。
こいつ、俺が時間をかけて持ってたのを短時間で持ってくなんて…
やっぱりキーパーは力が付くんだなあと感心しながらも、ちょっと悔しくて円堂の頭をさっき貰ったばっかりのもちでこん、と叩いてみた。
うん、いい音。
不意打ちでかなり痛かったのか、円堂は涙目になりながら頭を抑えて唸り声を上げていた。
「いきなり何すんだよー!」
「ああごめん。ちょうどそこに叩きやすそうな頭があったから」
「だからってもちの角はないだろー!硬いのスッゲー痛いんだぞ!?」
「だからちょっと手加減しただろ」
「風丸は手加減って言葉間違って覚えてるよな」
お返し、と言ってもちをもって突進してくる円堂を俺はさっと横によける。
するとそのまま前に走って行って、案の定向こうからドンガラガッシャーンというとてつもない音が聞こえてきた。
いそいで廊下を走ってあとを追いかけると、そこにあったのは物置に突っ込んで埃まみれになった円堂の屍だった。
その姿に思わず笑いそうになる気持ちを抑えて、俺は円堂の近くにしゃがみ込んだ。
あーあ、きっと正月から円堂とふたりで掃除だな。
「おーい、大丈夫か?」
「……風丸はこれが大丈夫に見える?」
「うん、見えない」
思わず笑みがこぼれると、とたんに不機嫌な声が下から聞こえてくる。
早く助けてやらないとな、と思い手を伸ばすと逆に強い力でぐいっと引っ張られて、そのまま円堂の上に倒れ込む形となった。
「ちょ、いきなり何すんだよ!」
「へへ、さっきのお返しー!」
俺はジタバタと暴れるが、それは円堂には全くの無意味のようで、すぐに腕の中へとすっぽり収まってしまう。
力強いからっていい気になって…!
「あーあ、大晦日に円堂とふたりで埃まみれとか…」
「もちでなぐってきた風丸が悪いんですー」
「いや、絶対餅を持ってきたお前が悪い」
その時、ゴーンゴーンという、新年の始まりの音が街全体を包み込む。
あ、とふたりで声を合わせテレビの音に耳をすませてみれば、あけましておめでとうと新年の挨拶が盛大に聞こえてきた。
「…新年がまさか、物置から始まるとか…」
「…今までになくて、面白いぜきっと」
「さすがだな、そのポジティブ」
パチッと目線があい、こらえきれなくて二人で吹き出す。
何だ今年の年越し。こんなの初めてだよ。
大晦日に餅を片付け、円堂と二人で物置で年を越す。
そんなおかしな一日が、俺はたまらなく大好きなんだ。
こんなのになっちゃったのも、全部全部円堂のせいだよなあ。
「なあ、円堂」
「ん?」
「またこうやって、一緒に年越せたらいいな」
そう言うと円堂はいつもの太陽のような笑顔で二カッと笑った。
「あたりまえだろ!」
(たまにはこんな正月も、悪くはないか)
一番最初に、おめでとう。
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優月ちゃんのところから奪ってきました〜
円風っ…!
ちくしょうかわいいじゃねぇか!
ありがとうございました。