家宝

□ビター・テイスト・ゲーム
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※有り得ない位に長いです。視点もコロコロ変わります。それでもOKな方のみどうぞ↓



(鬼道視点)


「なぁ不動、本当に欲しいものは無いのか?」

「ん、ねぇよ」


そう言うと不動はまた手元の雑誌に視線を落とし、ページをめくった。
雑誌の表紙には大きくクリスマス特集と書かれている。
そう、今日はクリスマス・イヴだ。


せっかくのクリスマスなんだ、恋人に何か贈り物をしたい。
世間一般的なその考え方は俺にとっても例外ではなく、こうして不動にもう何度目かわからない程に質問している。だがその度に欲しい物は無いと言われ、挙句の果てに俺は鬼道クンが居てくれたらそれでいいとまで言い出した。もちろん、その発言自体は物凄く嬉しい。しかし、同時に、それならば益々何か喜んでもらえる贈り物をしたいという気持ちが強まるのだ。


かと言って、勝手に何かを見繕って贈るわけにもいかない。
何故ならば不動は俺の少々並外れた(自分ではそう思っていないが)金銭感覚に納得出来ないらしく、俺が独断で選んだものを極端に嫌がる傾向があるからだ。
さすがにクリスマスの日に喧嘩は避けたい。そう思うと結局何も用意することが出来ず、現在に至る。だが今からでも遅くは無い。今夜中に何とかして不動の欲しい物を聞くことが出来たら、明日のクリスマスには大抵のものは用意出来るだろう。問題はどうやって聞きだすかだ。


さて、どうしたものか。




(不動視点)


欲しい物なんて、逆にこっちが聞きたいっての。
俺は雑誌のページをめくりつつ、未だにこっちをじっと見つめて思案している鬼道クンの顔をちらっと盗み見た。


鬼道クンには悪いが別に俺は欲しい物なんて無い。いや、全く無いわけではないけど、わざわざ鬼道クンにプレゼントしてもらう程の欲しい物は無いって意味。
鬼道クンが居てくれたらそれでいい、なんてセリフも俺にしては珍しく素直な気持ちからの言葉だった。鬼道クンはどこか不満そうだったけど、鬼道クンからのプレゼントはなるべく遠慮したいってのが俺の本心だ。
この前に出かけた時だって、何気なく見ていたシルバーアクセサリーを俺が欲しがっていると勘違いして店ごと買い上げようとしやがった。あの場は何とかして引きとめたものの、そんなことは1度や2度じゃない。


鬼道財閥の跡取り息子である鬼道クンは並外れた金銭感覚の持ち主だ。軽い気持ちでアレ欲しいなんて言ったら想像以上に金をつぎ込んで高級品を買い占めてくるだろう。冗談じゃない、あんな思いはもう沢山だ。


それよりも俺のほうが鬼道クンの欲しい物を聞きたい。俺だって鬼道クンに何かプレゼントしたい気持ちはある。だが先にも言ったように鬼道クンは大金持ちだ。俺なんかと違って欲しい物は何でも手に入る。どんなに同じ立場を貫こうとしても、家庭環境の差、其処には大きな溝がある。それは鬼道クンも解っているらしく、強引に鬼道クンの自己満足を押し付けてこようとはしない。俺が何よりそれを嫌うことを知っている上での思いやりなんだろう。そういうとこもひっくるめて、俺は鬼道クンが好きだ。一見、互いにどこか遠慮した臆病で居心地の悪い関係に見えるかもしれないが、そんなことは無いし、金持ちだって別に悪いことじゃ無い。俺と鬼道クンはこの付き合い方でちょうど良いんだ。

少し話が逸れたが、そんな訳で俺なりに考えて俺なりのプレゼントを用意した。喜んでくれるかどうかはその場の賭けだが、問題はどうやって渡すかだ。如何せん俺は天邪鬼だ。甘い言葉や雰囲気なんてそう簡単に言ったり作ったり出来るわけが無い。


さて、どうしたものかな。




(鬼道視点)


あれから5分が経った。
不動は雑誌をあまり真剣に見ていないらしく、もう4ページもめくっていた。
俺はというと欲しい物を聞き出す具体案が思いつかず、先ほどの会話からずっと無言状態が続いていた。あちらこちらと部屋の中に視線を漂わせるが、逸らそうとすればするほど、視線はすぐに不動自身に向いてしまう。それならばテレビでもつけて気を紛らわせれば良いのだが、十中八九クリスマス関連の特別番組しかやっていないだろう。それはこの状況において余りにも酷すぎる。


ずっと立って不動を見ているのもなんだし、ここは一度部屋から出て1人になったほうが良いかもしれない。ついでにコーヒーでも頼んでくるとするか。不動はコーヒーを好まないから紅茶で良いだろう。そう結論づけた俺は早速部屋から出た。否、出ようとした。
扉に向かおうと不動の横を通った瞬間、たった今までカーペットの敷かれている床に胡坐を掻いて雑誌を眺めていた不動がいきなり俺の腕を掴んで引き寄せたのだ。その突然の行動に対処出来る訳も無く、俺は引き寄せられるままに尻餅をついた。


「・・・なっ、何をするんだ!」

「ぁー・・・わりぃ。まぁそう吠えんなって、鬼道クン」


ふざけるな、そう言ってやりたかったが、ゴーグル越しに睨み付けた不動は戸惑っているような様子だった為に拍子抜けしてしまった。普段の意地の悪い笑みはどこかになりを潜め、赤く染まった頬と下がった目尻が愛らしい。そんな滅多に見れない表情を思わずガン見していると、やっと何かを決心した不動が傍に置いていた黒いカバンから何かを取り出した


「・・・その、なんつーか、・・・・・・メリークリスマス」

「・・・・・・何だ、コレは?」

「・・・プレゼントに決まってんだろ」


そう言うと不動は取り出した白い箱を俺に差し出した。包装やカードの付いていないただの紙製の白い長方形の箱はどうやら不動自身が組み立てたものらしく、またその箱の形状に見覚えがあった。受け取った時の重さといい、持ち手が付いている独特の箱の造りといい、俺の予想が正しければこれは恐らく。


「ケーキ、か・・・?」

「そ。俺が鬼道クンにしてやれるのって料理くらいしかねーし」

「まさか、手作りなのか・・・!?」


恐る恐る箱を開けてみると、中から現れたのは小さなホールケーキ。
特徴的な表面のひび割れと、塗されている粉糖から察するにこれはガトーショコラなのだろう。


「・・・お前、菓子も作れたのか・・・」

「まぁ一応。って言ってもコレ結構簡単なやつなんだけどな」


食えないことは無いと思うぜ?と、どこか気恥ずかしそうに言う不動は確かに料理が出来る。その腕前は俺自身もよく知っている。なのでこのガトーショコラも美味いだろう。・・・・・・が、問題はそこじゃない。そう、根本的に違う。今更言うまでも無いと思うが敢えて言おう。たった今まで俺を散々悩ませていた問題は何だった?


「・・・ひ、卑怯だ!!!俺には何もいらないと言っていたのに、貴様だけこっそりプレゼントを用意するなんて!!!」

「ぅわっ!?いきなりキレんなよ鬼道クン!!仕方ねーだろ!ほんとに欲しい物なんてねーんだもん!」

「だからって納得できる訳が無いだろうが!!」


不動は俺の為にわざわざケーキまで作ってくれたのに。俺は結局不動の為に何も用意できなかった。やはり独断でも偏見でも何でも良いから用意すれば良かったと今更だが後悔する。自分でも子供っぽいと思うが、腹いせに手近にあったクッションを不動に投げつける。それを寸前で避けた不動は、これ以上暴れられてたまるかとでも言うように俺の両手首を掴んで引き寄せてから、座った体勢のまま俺を抱きしめた。


「・・・何だよ、嬉しくなかったわけ?」

「嬉しくないわけないに決まっている、だろう」




(不動視点)


何だよそれ。俺も人のこと言える立場じゃないけど、鬼道クンも相当素直じゃないよな。腕の中の鬼道クンは未だにブツブツと文句を言って抵抗してくるが、構わずに抱き締める。手作りのガトーショコラ。これが俺なりに考えた鬼道クンへのプレゼントだった。舌が肥えている鬼道クンからすればイマイチかもしんねーけど、それでも多少は自信のある出来だった。なのに鬼道クンは味云々よりも俺がプレゼントを用意していた事実のほうがお気に召さないらしい。全く、ガキみたいに暴れて散々悪態をつく様のどこが常に冷静沈着な天才ゲームメーカーだ。まぁこんな鬼道クンを俺しか知らないと思うと優越感に浸れるんだけど。


そんなことを考えていると、やっと落ち着きを取り戻した鬼道クンが伏せていた顔を上げてゴーグル越しに俺を見つめた。


「・・・俺の為に用意してくれた事は感謝している。が、やはりこのままでは納得出来ない」

「けど俺は別にまじで欲しい物なんて・・・」

「俺が居たらそれでいいというのは本当か?」


は?と思わず間抜けな声が出そうになったが、鬼道クンが余りにも真剣な声で聞いてくるもんだから、俺はからかいを抜きにして「そうだけど」と答えてやった。さすがに何回も言うのは恥ずかしいが事実は事実だ。俺は鬼道クンが居てくれたらそれでいい。
すると鬼道クンは「そうか・・・」と呟いた後、突然俺に触れるだけのキスをした。


「ならば、今夜は俺を不動の好きにしてくれて構わない」

「・・・へぇ?鬼道クンにしては随分大胆じゃね?」

「フン。やられっぱなしは性に合わないんでな」


こうして俺と鬼道クンの馬鹿馬鹿しいプレゼント闘争は一応、決着がついた。その後? 勿論ケーキ共々美味しく頂いたに決まってんだろ? 



(聖夜なんて関係ない)
(期限なしの恋愛ゲーム)
(誰より深く愛してみせる)


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不鬼ktkr!!
可愛いすぎて鼻からケチャップ
心なしか笑顔動画のタグみたいになってますが気にしないで…
ありがとうございました!

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