家宝

□君のぬくもりが欲しい
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「もう帰るぞ。さっさとしないと置いてく」

「うぇっ!?ま、待って!!先輩方!!お先に失礼しますっ!!」

「ああ。お疲れ様」

「おつかれー」


キャプテンと霧野先輩の声を背に、
俺はすたすたと前を歩いていく剣城に向かって走る


正門近くで何とか追いついて、剣城の横に並んで歩く


ちょっと身長差があるだけで、
こんなにも歩くスピードが違うものなのかな?


俺は内心で少し羨ましく思いながら剣城を見上げる


剣城も俺のほうを見ていたみたいで、目が合った


そして一言。


「・・・・・・松風、お前もうちょっと離れて歩けないのか?」

「え?」

「さっきから近寄りすぎなんだよ」

「あ、ご、ごめん・・・・・・。剣城に会わせようと思ってたらいつの間にか・・・」


嘘ではない、けど。
剣城の顔に見とれていたっていうのも事実だ


じゃなくって、どうしよう。
俺やっぱり隣りを歩くなんて図々しすぎたよね


俺は何だかきまりが悪くって、思わず立ち止まってしまう


すると剣城も俺の1歩先で立ち止まった


俺はなんて言ったらいいのかわかんなくって、
剣城の顔をじっと見つめる


夕日を正面から受けているせいなのか、
剣城の頬がどことなく染まっている気がする


なんてまた剣城の顔に見とれていると、
俺が黙ったままなことに痺れを切らした剣城が先に口を開いた


「・・・俺がお前に合わせて歩いてやるから、離れて前見て歩け」

「で、でも・・・・・・」


そんなの余計に剣城の迷惑になるんじゃ、


「言うこと聞けよ。・・・・・・一緒に帰るんだろ?」


そう言って剣城がトン、と俺の背を押す


俺は押されるままに、剣城の2、3歩前に出る


「・・・うんっ!ありがと、剣城!」


くるっと振り返って笑顔で言うと、
「前見て歩かないといいかげん転ぶぞ」ってぶっきらぼうに言われた


でも俺はちゃんと知っているんだ、
これは剣城の不器用な優しさだって


俺は嬉しくなって軽くスキップをしながら歩き出す


俺達は最近一緒に帰るようになった


理由は簡単、剣城のお兄さんのお見舞いに俺も同行していいことになったからだ


あまり学校でのことを話したがらない剣城に、お兄さんが
「この前京介を追いかけてきた天馬くんって子、連れてきてよ。京介からよく聞くし、仲良いんでしょ?俺、天馬くんに学校での京介のこと聞きたい」と言ったらしい


このことを剣城に言われた時、
俺は2つの意味で驚いた


1つは剣城が俺の話をお兄さんにしているという事。
もう1つは普段はこんなにもツンツンしている剣城だけど、
お兄さんのお願いにはどうにも弱いという事。


その証拠に、
「1回だけだからな」と言われたにもかかわらず
俺はもう何度も剣城と一緒にお兄さんの元を訪れている


「京介、また天馬くん連れて来てよ。いいでしょ?」
とお兄さんが剣城に何度も言ってくれたおかげだ


そして今に至っている。


いつも一緒に帰っている信助には悪いけど、
正直俺はかなり嬉しい


クラスが違う剣城とは普段部活でしか会えないのに、
お見舞いの日は部活が終わったあとも剣城と一緒に居られるから。


こんなこと言ったらまた怒られちゃうかな?


そう思いながら歩いていると、
剣城が「犬のしっぽが見える」と小さな声で呟いた


「へ?」

「何でもねぇよ。前見ろ前」

「うんっ!・・・って、わっ!?」



言われたそばから、俺はアスファルトの凹みに躓く


頭の中では危ないとわかっているのに、
身体が勝手に前へと傾く


ぐいっ


「おまっ・・・本当に危なっかしい奴だな・・・」

「あ、ありがと・・・」


間一髪、剣城が俺の右腕を引いてくれたおかげで転ばなかった


「だから前見ろって言ったんだ」

「う゛、ごめんなさい・・・」


剣城がゆっくりと手を離す
剣城に掴まれたところがなんだかあったかい


「・・・剣城って手あったかいんだね」

「は?・・・ポケットに手突っ込んでるからだろ」

「そっか、確かに。じゃあ俺もそうしようかな」

「お前、たった今反省したんじゃなかったのかよ」

「あ。・・・でも、手寒いんだもん」


いくら昼間は暖かいと言えども、
日が沈みかけているこの時間帯は冷える


俺は寒さでじん、としびれている指先に
息を吹きかける


「知るかよ。次転びそうになっても助けないからな」

「またそんな意地悪な言い方する・・・。あ!良いこと考えた!剣城、手繋ごっ!」

「ハァ!?」

「そしたら手あったかいし、転ぶ心配も無いでしょ?」

「・・・あのな。松風、何で俺がそんなことしなきゃいけないんだよ」

「良い考えだと思わない?ね、そうしよ!」


俺はニコニコと剣城に手を差し出す
剣城はしばらく俺の手と顔を交互に見つめて、
やがて心底呆れたようにため息をついた


「・・・お前、先に兄さんのとこ行ってろ」

「え!?剣城!!?」

「ついてくんな。先に行け」


それだけ言うと剣城が元来た道へと引き返す


俺が呆然としている間に、
剣城は部室を出て行った時と同じようにすたすたと行ってしまった


「ど、どうしよう・・・」


また調子にのっちゃった・・・
何で俺ってこんなにも成長しないんだろ・・・


きっと剣城はものすごく怒ってるんだ
だから引き返しちゃったんだ


昔からよく「もう少し考えてから行動しなさい」って言われてたけど、
本当にそのとおりだ・・・


でも今は考えている場合じゃない
早く剣城を追いかけて謝らなくちゃ


そう思って顔を上げると、
剣城がさっきと同じように道を歩いてくるのが見えた


「え・・・剣、城・・・?」

「何で先に行ってないんだよ。兄さん待ちくたびれてるだろ。っていうか道の真ん中に突っ立ってたら邪魔だろ」


剣城が俺と向き合う形で立つ
逆光を受けて、剣城の表情はいまいちわからない


「剣城こそ、何で?俺のこと怒って、一緒に行きたくなくなったんじゃないの?」

「・・・アホ。今更松風の発言にいちいちキレたりしねぇよ。これ買いに行ってたんだっての」


そう言って剣城が俺の手に小さなペットボトルを落とす
ラベルには『ほっとレモネード』と書かれている


表記のとおり、ペットボトルは暖かい
そう言えば、ちょっと戻ったところに自販機があったっけ


「こ、これ・・・!!」

「適当に選んだヤツだから、不味かったら飲まなくていい。それで多少カイロ代わりになるだろ」


剣城がそっぽを向きながら目線だけ俺の方に向けて言う
怒ってるんじゃなかったんだ・・・


「これ買いに行ってたの?」

「お前が寒いって言うから。やる」

「でも、お金・・・」


いくらしたの?と聞く前に剣城がまた口を開く


「兄さんの見舞いに付き合ってくれてる礼だ。金はいらない」

「だ、ダメだよそんなの!!俺、受け取れないよ!!」

「・・・なら、今度行くときにお前がおごってくれたら良い」


そう言って剣城が今度は病院のほうへと歩き出す


今の言葉って、また一緒に行っていいってことだよね?


「・・・ありがとう、剣城!!」


俺はペットボトルをぎゅっと胸に抱きしめて、
剣城を追いかけた



(あれ?何で手は繋いじゃダメなの?)
(恋人じゃないのにんなこと出来るか!!)
(じゃあいつかは繋げるね♪)
(なっ///!!?)





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京天寄りの天京だそうです!!
ホントに可愛い!

ありがとうございました!

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