家宝

□Only you call my name
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「そう言えば、キャプテンと霧野先輩って幼なじみなのにどうして名前で呼ばないんですか?」

「「へ!?」」


ある日の部活終了後、
部室で着替えやら帰りの支度やらをしていた俺たちに天馬が聞いてきた


天馬はもうとっくに着替え終わっている
それなのにまだ残っているのは、剣城が着替え終わるのを待っているからなんだろう


最近仲良いよな、こいつ等。
なんて、俺はシャツに腕を通しながらぼんやりと考える


「む、昔は名前で呼んでた・・・けど」


そんな天馬の突然の質問に神童が若干頬を染めながら答える
あれ、もしかして意識してんのかな?


「今も2人きりの時は名前で呼んでるよな〜」

「ききき霧野っ///!!」


さっきよりも赤くなった
あ、やっぱ図星だったんだ。かわいー。


「じゃあ何で普段は、「お前詮索しすぎ」うぁ!?」


ぽか、着替え終わった剣城が天馬の頭を軽く小突く


「剣城っ!!」

「もう帰るぞ。さっさとしないと置いてく」

「うぇっ!?ま、待って!!先輩方!!お先に失礼しますっ!!」

「・・・・・・失礼します」

「ああ、お疲れ様」

「おつかれー」


先に出て行く剣城の背に向かってバタバタと天馬が走って行く
天馬たちが帰って、部室に残ってるのは俺と神童の2人だけになった


「び、びっくりした・・・・・・」


さっきまで天馬に詰め寄られていた神童が、
まだ動揺を隠せない様子で長椅子に座り込む


へにゃ、と下がった眉に半開きの唇が可愛らしい。
いや、いつでも可愛いんだけどさ。


それでもこの肩肘を張ってないときの素の神童を俺しか知らないと思うと、
自然と愛しさが込み上げる


「・・・?な、何でにやけてるんだ?霧野・・・?」

「いや、可愛いなって」

「ば、ばかっ///!!早く着替えろ!!」

「わかってるって。な、神童はまだ覚えてる?あの時のこと」

「・・・当たり前だろ。まだ2年前のこと、なんだから・・・」

「ははっ、2年前か。そうだよな」


そう、俺たちが名字で呼ぶようになったのは2年前。
きっかけは中学に入学する、ほんの少し前。
まだ小学生の時のことだ。


あの頃の俺はもうとっくに神童に対しての好意を、
『幼なじみの親友』ではなく『恋』として向けていることに気づいていた

 
んで、簡単に言えば嫉妬していたワケ。
『誰に』ってそりゃ俺以外の、神童のことを名前で呼ぶ奴ら全員に。




***


「拓人、何で他の奴らにまで名前で呼ばせてるんだよ」

「何で、って・・・。だって蘭丸がそう呼ぶし、みんなだけ呼ばせないのも変だろ。みんなも名前で呼ぶのが普通だって言って・・・」

「じゃあ、中学に入ったら俺たち名前で呼びあうの禁止な。」

「!?な、何で・・・?蘭丸、俺のこと嫌いになった・・・?」


じわっ、と拓人が目に涙を浮かべる
俺は少し乱暴に袖で拓人の涙を拭う

俺は怒ってるんだ、そんなに優しく出来ない。


「逆。拓人のこと大好きだから、俺以外の奴が名前で呼ぶのムカつくんだよ」

「な、何それ・・・。でもいきなり名前で呼ばないなんておかしいだろ・・・。」

「だから中学に入ってからするんだよ。環境も変わるし?幼なじみの俺でさえ名前で呼ばなかったら、誰も拓人のこと名前で呼ばないだろ」

「そ、そうか・・・?でも、何て呼ぶんだ・・・?」

「名字。とにかく、決定な。」


中学に入るまで我慢してやるんだから、俺って寛大だよな
と、俺は内心で納得する。


「ずっと・・・ダメなのか・・・?」


拓人が俯きがちに小さな声で尋ねる
せっかく拭いたのに、また涙目だ


「・・・いや、ずっとじゃない。もっと特別になったら、また呼んでいいよ」

「もっと特別・・・?幼なじみの親友は、特別じゃないのか・・・?」

「俺のなりたい特別とは違う。でもいつか、な。」

「・・・??」


それから俺たちは中学に入り、最初はぎこちなく、でもしだいに慣れてきて、
今では自然にお互いを名字で呼べるようになった。


そして俺の目論見どおり、拓人のことを名前で呼ぶ奴は居なくなった。



***

「ま、晴れて特別になれたワケだし。めでたしめでたし、だよな」

「どこがだ、バカ。どれだけ独占欲が強いんだお前は」


けらけらと笑う俺に神童が呆れた顔で言う


「えー?また名前で呼べるようになって嬉しくないの、拓人?」

「・・・・・・嬉しくない、わけないだろ。・・・蘭丸」


ああ、やっぱすっげー大好き



(誰にも譲らない)
(俺だけの特別の証)
(君の名を呼ぶ)

 
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桜兎様よりフリー小説です!!
ああ蘭拓よ、あなたたちは何故そんなに可愛いの?
ってことでありがとうございました!

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