Silver Flame
□StoryT
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――パチ、パチッ。
―――ジリリリリ、ジリリリリ。
普段ならば、沈黙が支配しているはずの深夜。
曇りがちな暗い空に、何かの弾ける音と、それに重なるベルの音が鳴り響く。
―パチ、パチチッ。
――ジリリリリ、ジリリリリ。
「…………。」
己の手の内で甲高い音を鳴らし続けながら、その人物はひっそりとその場に立ち尽くしていた。
――ジリリリリ、ジリ、
不意に、ベルの音が途絶えた。
「……もしもし?」
人物は、手の中の小型通信機に向け、声を投げ掛ける。
しかし、スピーカーから何も返ってこない。
人物がもう一度口を開きかけたその時、無感情な声が、スピーカーを当てた右耳と背後の両方から聞こえた。
「もしもし。」
その声に、人物はゆっくりと振り返る。
「――あぁ、よかった。」
人物は、声の主とその先の光景を見つめ、嬉しそうに口元を綻ばせた。
「確認せず燃やしちゃったから、死んじゃったかと。」
その視線の先では、立派な豪邸が紅蓮の炎に巻かれ、爛々と燃え盛っている。
パチパチと火の粉をあげながら、深紅の炎が人物を照らし出した。
そこにいたのは、柔らかく微笑む妙齢の女性。
彼女――トルイ=ゾルディックは、自らに音も立てず接近してきた人物に向け、優しい眼差しを投げ掛けた。
「――よかった、イルミ。」
「――姉さん。」
イルミと呼ばれた青年は、漆黒の髪を熱風に靡かせ、彼女のそばに歩み寄る。
トルイは、光を映さない彼の瞳をいとおしそうに見つめ、ゆったりとした調子で言葉を紡いだ。
「―さぁ、帰りましょうか。」
彼女は緩やかな動作で出口を振り返り、荘厳な装飾の成された門をくぐる。
豊かな波打った銀髪が、赤みを帯びて輝いた。
「――うん。」
イルミも、遅れてその後を追う。
後には、灼熱に焼かれる屋敷のみが残された。
そこから吐き出される煙りは、暗い空をいっそう曇らせる。
――――これが、彼らの日常だった。