Silver Flame

□StoryT
1ページ/5ページ






――パチ、パチッ。


―――ジリリリリ、ジリリリリ。



普段ならば、沈黙が支配しているはずの深夜。


曇りがちな暗い空に、何かの弾ける音と、それに重なるベルの音が鳴り響く。


―パチ、パチチッ。

――ジリリリリ、ジリリリリ。


「…………。」


己の手の内で甲高い音を鳴らし続けながら、その人物はひっそりとその場に立ち尽くしていた。



――ジリリリリ、ジリ、



不意に、ベルの音が途絶えた。


「……もしもし?」


人物は、手の中の小型通信機に向け、声を投げ掛ける。


しかし、スピーカーから何も返ってこない。



人物がもう一度口を開きかけたその時、無感情な声が、スピーカーを当てた右耳と背後の両方から聞こえた。


「もしもし。」



その声に、人物はゆっくりと振り返る。



「――あぁ、よかった。」

人物は、声の主とその先の光景を見つめ、嬉しそうに口元を綻ばせた。


「確認せず燃やしちゃったから、死んじゃったかと。」


その視線の先では、立派な豪邸が紅蓮の炎に巻かれ、爛々と燃え盛っている。


パチパチと火の粉をあげながら、深紅の炎が人物を照らし出した。


そこにいたのは、柔らかく微笑む妙齢の女性。


彼女――トルイ=ゾルディックは、自らに音も立てず接近してきた人物に向け、優しい眼差しを投げ掛けた。


「――よかった、イルミ。」

「――姉さん。」


イルミと呼ばれた青年は、漆黒の髪を熱風に靡かせ、彼女のそばに歩み寄る。


トルイは、光を映さない彼の瞳をいとおしそうに見つめ、ゆったりとした調子で言葉を紡いだ。


「―さぁ、帰りましょうか。」


彼女は緩やかな動作で出口を振り返り、荘厳な装飾の成された門をくぐる。


豊かな波打った銀髪が、赤みを帯びて輝いた。


「――うん。」


イルミも、遅れてその後を追う。


後には、灼熱に焼かれる屋敷のみが残された。



そこから吐き出される煙りは、暗い空をいっそう曇らせる。





――――これが、彼らの日常だった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ