BJ

□困ったことに
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「いっ、い、要りません!こんな…っ!」


慌ててそれを押し返すと、彼は眉根を寄せて不思議そうな顔をした。


「なぜです?
これは謝礼なんですぜ。
遠慮せず受け取ってください。」


「いやあの、遠慮とかじゃなくて…!」


ぶんぶん首を振る私に、理解出来ないといった様子の男。


なんてシュールな図だろう。


「わ、私はピノコちゃんが好きだから!
助けたかったから助けたんです!

こんなものを頂くためじゃありません…」


尚も眉間の皺が消えない男に、なぜか恐怖すら沸いてくる。

眼力が凄いわね…。


「助けたいから助けた?
見返りも求めずに?」


「は、はい!当然です!」


「…よく分かりません。」


顎に手を当て考える素振りを見せると、彼は低く唸った。


「私はたくさんの患者を診てきたが、全て金の為に手術(オペ)しました。
貴女は見返りもなしに、自分の命を犠牲にしてまで人の命を救おうと思ったのですか?」


「え?ええと…」


そんな、深く考えた訳じゃなくて。

気が付いたら体が動いていて。


そういうのって、この人にはないのかな?

そう思ったら、何だか無性に寂しくなった。



「…先生、恋ってしたことあります?」


「は?」


「いや、恋じゃなくても、誰か特別な人が出来たことは?」


「……まあ、一応は。」


「じゃあその人が耐え難い苦痛や不安に襲われて、自分を頼ってきたら…どうしますか?」


「…何が言いたいんですか?」


「いいから」


「…話を聞いて、身体的な不調だった場合には診察しますね。」


「お金は取りますか?」


「……いや。」


「そういうことです」


「??」


本気で分からないといった表情をした彼に、思わずあははと笑ってしまう。


「ピノコちゃんは私の唯一無二のお友達。だからいなくなってしまったら私が困るし、何より悲しいわ。

だから助けたんです!」


だから、と続けて、札束を更に押しやる。


「お金なんて、要りませんよ。

ピノコちゃんの近況を聞く方がよっぽど嬉しいわ」


にこっと笑いかけると、彼は目を逸らした。

やがて深い溜息を吐いた彼は、椅子の背凭れに寄り掛かると


「貴女にとってピノコはもう唯一無二の友達なんですね…?」


と私に尋ねた。


私がはい、と答えると、気怠げな瞳をこちらに向けて、彼は







「…じゃあ今度は俺を唯一無二の存在にしてくれませんかね?」







と言ったのだった。
















【困ったことに】














(決して金で買えない気高い魂)

(見返りを求めない純粋さ)



(どうやらあんたが好きになっちまったらしい。)
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