BJ
□困ったことに
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来客の用意なんてしていなかった私の焦った様子に、彼は「お構い無く」と言ったが、流石に何もしない訳にはいかない。
咄嗟に「どうぞ」と部屋へ招き入れたものの、重要な事を忘れていた。
彼は誰だ。
「お…お茶を淹れてきます…!」
逃げるように部屋から飛び出して、キッチンへと向かう。
どうしよう。
何となく見覚えがあった気がして上げちゃったけど…
さっとお茶を淹れて戻ると、彼は何をするでもなく、静かに座していた。
「あ、どうぞ…」
「どうも。」
受け取った指が荒れている。
これは…
「消毒焼け、ですか?」
「分かりますか?」
自分も席に着いて男を見詰めた。
傷が少し目立つが、綺麗な顔立ちをしている。
四肢もスラリと長く、背の高い男だ。
ぼうっとそんな事を思っていたら不意に視線が合って、慌てて反らした。
「聞かないんですか?」
「…え?」
「私が誰だと。」
ニヤリという効果音の似合う笑みを浮かべ、男は鞄を漁り出した。
やがて鞄から布に包まれた塊を取り出し、テーブルの上に置く。
「名前くらいはご存知じゃないですかね。
ブラックジャックという悪徳医です。」
「あっ…!」
そうだ!どこかで見たことがあると思ったら!
前に見た奇跡の手術と題されたテレビ番組で、確か彼は執刀していた。
「奇跡の手術をする名医さん…」
「おや、随分と好印象ですね。」
薄く笑ったその人は、テーブルの上に置かれた塊をこちらへ滑らせるようにして差し出した。
「ピノコから話は聞きました。
あの子を救ってくださったそうで…ありがとうございます。」
「…?え、あの、これ…」
何だろう、と思い布を取ると。
「!!?」
重みを感じさせるような高さのある札束が。
驚きのあまり布を放り投げてしまった。
「な、何ですかこれ!偽札?」
「いいえとんでもない!本物ですよ。
命の恩人に偽札を掴ませるような男じゃないですぜ、私は。」
いや本物だったらもっと恐ろしいんですが。
困りきって「どうしてこんな…」と情けない顔で呟けば、彼は腕を組んで言った。
「うちのピノコが車に轢かれそうになったのを、貴女が飛び出して助けてくださったと聞いたんです。」
「え、ええ、まあ…」
「ですから保護者としてお礼を。」
「ええっ!?」
…どうやら彼のお礼という感覚は一般とはかけ離れているらしい。