夜櫻

□序章
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あの日の事は、よく覚えている。
よくも悪くも、私の人生を変えてしまった、両親からの言葉。

・・・父からの言葉。

大事な話しがあるから、と通された応接間に両親の姿があった。

痛切な表情をした母は、私が入ってきてからずっと下を向いていて少女を見ようともしない。


「イヤです、私は・・・!!」


少女は、父から出た言葉に、即座に反論する。



叫びは室内に響くが、静かに佇むその少女の父親にはなんの感情も生まれない。
彼にとって、全ては決定事項なのだ。

「・・・、桜子。家のためだ。・・・堪えなさい」


よって、返る言葉はそれのみ。


(イヤ・・・、イヤ・・・!!)
桜子と呼ばれた少女は、涙を流した。

(私は普通に過ごしたいの・・・!)

その思いは叶うことなく、ただ儚いだけ。

(なぜ私が政略結婚なんて!!?)

「桜子。全てはお前の為だ」
威厳を持つ、厳正な父。一家の大黒柱にたかが小娘が、意見を覆すことなど出来るはずもない。


それは、やはり桜子にもわかってはいるのだ。ただ、納得出来ないだけで。


まだ真新しい井草のにおいが立ち込める、私たち家族の家。

暮らし始めて、まだ3ヶ月。


当時、桜子はまだ幼さが残る14歳。
相手方との対面だけを終え、たがいに様々な問題を解決させて、正式に相手方の家に入ったのがその約3年後。


“家の為”・・・、桜子は新垣家へと嫁いだ。



福井 桜子  17歳

思いもよらぬ出来事がこれから起こるとも知らずに・・・。



目前に春が。そんな季節であった・・・。
 

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