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□美少年連続暴行髪切り事件(笑)
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「と、いうわけで鋼の。君には囮捜査に参加してもらう」
「おとり捜査だあ? イヤだね。なんでオレがっ。しかもそれ、婦女暴行なんだろっ。 オレは男だぜっ!?」
いつもの東方司令部、執務室。エドワードはソファに座り、ロイは珍しく真剣な面持ちでエドワードを見つめていた。
近頃、イースト・シティを騒がせている『婦女連続暴行髪切り事件』。被害者はいずれも金髪の美しい十代の女性たちで、髪を切られた後で暴行されるという、女性にとっては残虐極まりない事件であった。
そして、いつまでたっても捕まらない犯人に市民たちは怯え、いよいよ軍へと不満をぶつけようとしている。そのため、東方司令部は重い腰を上げたのだった。
ロイは手元にあった書類を手繰り寄せて、パラパラとめくり始める。
「…中央地区で3件、東地区で1件、西地区で2件、南地区で2件…計8件もこの連続事件は起こっている。憲兵たちも東方司令部へ泣きついてくる始末だ。ここまで好き勝手にやられては、我々の信用も落ちるというもの」
ロイの話に、エドワードは舌を出した。
「落ちればいいんだ。軍の評判なんて。とにかく、オレには関係ないね。おとり捜査なんてお断り」
どうせ、おとり捜査なんてロイの趣味に決まってる。たまたまイースト・シティにいただけなのに、こんなふうに借り出されるのは御免だった。
「…被害者の少女たちは、みな長い金髪だったそうだ。手口はどの件も一様に、まずは髪の毛を切り、切った後で暴行を加えるというもの。君と同じくらいの年の少女も被害者になっている。君はそんな女性たちの心が傷つけられていくのを、放っておくというのかね?」
ロイの言葉にエドワードはたじろいだ。確かに残虐な事件だと思うし、年端もいかない少女を犯すような犯罪者は同じ男として許せない。捜査に協力しろと言われたなら、協力したっていいと思っている。けれど…。
「…ただ単に協力するだけなら、いくらでも協力してやる。だけど、囮は絶対に嫌だっ!!!」
犬歯をむき出しにしてキャンキャンと吼えるエドワードに、ロイはため息を吐いた。
「何故?」
対するエドワードは怯まず、言い返す。この男の狙いがなんなのか、しっかりとエドワードにはわかっていた。女性が可哀想だから? とんでもない。
「あんた、絶対、オレにピンクのビラビラのドレスとか着せようと思ってるだろうっ!!」
ビシイッ! と指をロイに突きつけてやれば、ロイは呆れたように笑った。前髪を楽しそうにかきあげる。
「…なんだ、着たいのか? ピンクのワンピースが」
ロイの言葉に、エドワードはなおも激高する。
「だれが、んなこと言ったーーー!!!!」
声を上げて笑うロイに、エドワードはギリギリと歯軋りをしながら睨み上げた。
「もう、駄目! 絶対に協力なんてしてやんねっ!!」
イーっと歯をむき出して見せるエドワードに、ロイは楽しそうな視線を向けた。底意地悪そうに瞳を細めて。
「ほぉ。私の命令が聞けないと?」
そんなロイの視線に、エドワードの背中を冷や汗が流れた。
「………」
「今ここで、うんと言わざるを得ないしてもいいんだぞ? 鋼の」
わざと大きな音を立てて、ロイは椅子から立ち上がると、エドワードに近寄った。エドワードは慌てて後ずさる。
「う、うわぁ! わっ、わかったよ!! やればいいんだろっ。やればっ!!」
こんなところで、押し倒されて泣かされるのは勘弁とばかりに、エドワードは声を張り上げた。
「よろしい」
にこりと笑ったロイに、エドワードは苦虫を噛み潰したような顔をした。腹が立つことといったらありゃしない。いっつも力で押さえつけやがって。
「…ったく」
「では、ホークアイ中尉に準備を頼んでおいたので、きちんと彼女のいうことをきくように」
「…最初っから、オレに行かせるつもりだったんじゃねーかよ…」
「ん? なにかな?」
エドワードのつぶやきにも楽しそうに耳を傾けるロイに、エドワードはピクピクとこめかみを震わせた。だが、ここで怒れば嫌というほどロイに思い知らされると感じたエドワードは黙って言葉に従った。
「なんでもありませんよ」
エドワードはそう言って立ち上がると、執務室から出て行こうと扉に手をかけた。
「そうそう…」
が、ロイの言葉にピタリと動きを止める。ロイを振り返ると、心底楽しそうな顔がそこにあった。
「なんだよ」
不機嫌そうなエドワードの声をものともしない微笑に、エドワードは顔をしかめる。
「服は私が選んでおいた。髪はきちんと手入れをしてから下ろしたまえ」
楽しそうなロイに、エドワードは叫ばずにはいられなかった。
「完全にてめーの趣味じゃなねえかっ!!」
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