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□One night
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『one night』
『最近ずっとしてねえな・・・』
ベッドの上、隣でおだやかに寝息を立てている男をエドワードは少し不満げに見下ろした。やわらかい黒髪にそっと指を通す。さわっても気付かないほど、深い眠りに陥っていた。
ここしばらくロイは夜勤続きで、疲れていたのだろう。帰ってきた途端、ベッドに寝転がってしまった。「しばらく寝かせてくれ・・・」そう言ったままもう三時間も起きない。
イーストシティに着いてから一週間が経った。その間、セックスはもちろんのことキスひとつしていない。会ったのは一ヶ月ぶりで、帰ってきてから一週間もお預けをくらったのは今回が初めてだった。
「・・・大佐・・・」
明日の朝10時にはイースト・シティを後にしなくてはならないのに。一緒にいられる時間はあとたった10時間程度しかないのに。
「・・・起きろ。バカ・・・」
鼻をつまんでやろうかとも思うのだが、気持ちよく眠っているのを妨害する気にはなれなかった。この男はなんだかんだで忙しい。自分のためだけに裂ける時間というのはないに等しいのだ。
それを、自分の欲望のためだけに使わせるわけにはいかない。睡眠時間だって彼の大事なプライベートタイムなのだから。
「・・・だからって・・・じゃあ、オレは睡眠時間にも劣るのかよ・・・」
“恋人”という存在はあまりにも不安定すぎる。特にこの男の恋人という立場は非常に危険だ。自分の考えに頬を膨らませながら、エドワードは絶対に聞こえないような声でロイに囁いた。
「・・・大佐・・・。好き・・・抱いて・・・」
しばらく待ってはみたものの、やはり返事を返すのは寝息だけ。
旅先で一人ベッドの上にいると、どうしてもたまらなくなる夜が何日かあった。けれど一人ですることがどれだけ虚しいことか知っているので、なるべくならロイにさわってもらいたいと、この一ヶ月間自慰もなしに寂しさと戦ってきたのだ。
「・・・オレの純粋な心を知りもしねーで。コイツは・・・」
性行為だけが全てでないことはもちろん分かっている。けれど、欲望はしっかりとそりゃあもう感心するほどきっちりと溜まっていくのだ。
なんだかんだでセックス自体は慣れてしまえば気持ちのいいものだったので、エドワードにとってはこの慣れの後がきつかった。いつもロイと一緒にいられるわけではないし、ましてや他の誰かとなんて論外の話だ。欲望を吐き出す場所はたったひとつだけだと言いきかせながら、胸を高鳴らせて帰ってきたのに・・・。
「・・・起きねえなら、一人でやっちまうからなっ・・・」
隣に相手がいるというのに自身を慰めようとしている己を哀れみながら、エドワードはロイに背をむけた。
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