中・短編
□荊-THORN-【ALL-Side】
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ちらり…ザックスは、枕に埋もれていた顔を上げ、椅子に座り、リンゴを食べているクラウドを見やる。
「……よかったな」
ぽそりと、凡そ本人らしくない…自分にさえ聞き取れるか取れないかの声音で告げた、祝福の言葉。
「えっ?ザックス、何か言った?」
「うんにゃあ、な〜んも、このリンゴ旨いなぁって思ってさ」
ひょいっと、皿にあったソレを指で摘まみ口へと放る。
「あっ、ほんと!!よかった」
そう言って、ふんわり笑うクラウドに“うん、ホントよかった…”と違う意味も込めて笑顔を返す。
さて…
そろそろかな?
ザックスは思う。
ソルジャーの常人より発達した聴覚が、その独特の歩調音を捉え始めた。
……5…4…
3、
2、
1…ガラガラガラ…
引き戸式の扉…その扉が、了承も無く開け放たれるのはいつもの事。
そして、
訪れる人物も…
「よっ!!旦那」
「セフィロスさん」
いつもと変わらない。
「クラウド…」
「…?はい?」
若干の呆れを含んだセフィロスの台詞。
それに、きょとり…と首を傾げる様は大変可愛いんだけどな…クラウド。
俺も、大概に人の事言えた義理じゃ無いケドさ、お前も…チョットはさ…──
ひょいっ!!
「ふ、わぁっ!?」
「リハビリの時間だ」
学習しような…色々と。
しかし旦那…
毎回、姫抱きって…。
いや、まぁ…
気持ちはわかるケドさ。
「邪魔したな」
「いやいや、こっちは楽しかったしなぁ〜」
「ちょっ!!下ろしてくださいっ!!!自分で歩けますから〜」
「じゃーまたな〜」
顔を真っ赤に染めて抗議するクラウドも何のその、問答無用とばかりに颯爽と病室を去っていく旦那の背中とクラウドの悲鳴に、ヒラヒラと手を振って見送る。
しかしさ…
「扉ぐらい閉めてけよな…」
がくり…項垂れる。
これも、毎回の出来事。
そして…
「おっ、今日も派手に疲れてるな、と」
「まぁなぁ〜…」
閉めるのも結局面倒だと、開きっぱなしだった扉から現れたのは悪友(?)のレノ。
これも、入院してからここ数日の常となった来客(?)の1人。
「つか、クラウドの叫び、フロア中に響いてたぞ、と」
椅子をガラガラと引き摺り腰掛け、クックッと笑うレノ。
「あ〜…クラウドも、しっかりしてる用でうっかり屋だかんなぁ…ハハッ」
ポリポリと頬を掻きながらザックスは苦笑し、リンゴを一口。
蜜入りだろうか?
かなり旨い。
レノもいつの間にか、リンゴを口にしている。
「……リハビリ順調らしいな、と」
「ん。もうすぐ退院だって言ってたな。まぁ、暫くは自宅療養になるらしいけど」
もしかしたら、俺より早いんじゃね?
「そうか、と」
「おぅ」
ふっとお互い笑い合い、リンゴで乾杯の真似事をする。
しょりしょりとリンゴをかじる音と、甘酸っぱい香りが暫し病室を包み込んでいた。
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