中・短編

□喪失
3ページ/4ページ


胸に巣食う途方もない虚無感が、己をじわりじわりと蝕む。

痛い…。

イタイ……。


鷲掴まれたかの様に、痛みを訴える心。


自分を取り戻し…その代償の様に蘇った過去の記憶。


その中心には、常に彼の姿があった。


「──────」


名を呼ぶ。

クラウドの両目から、ボロボロと馬鹿みたいに涙が溢れ、床を濡らす。


苦しい。

くるしいよ……。


「ァ………ふっ…うぅ」


ガリガリと、服の上から胸を掻き毟る。


クラウドの嗚咽が、闇に溶けていく。


仕方がないのだと…何度、言い聞かせただろう?

仲間が罵る度に、何度、違うっ!!と叫びたかったか。


何度……

「戦いたくない」

と、泣きたかったか…。


それでも、やらなければならなかった。


不意に溢れそうになる涙を奥歯で噛み締め、表情を偽り…嘆く感情を殺した決戦の時──。


最後の一瞬…
交わった視線。

変わらぬ双眸。
優しい翡翠──。


狂気に、歪んでる筈だった。

でも、あったのは変わらぬ眼差し……。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ