中・短編
□喪失
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しん…と静まり返ったブリッジから、外を眺める。
つい先程まで、淡い命の激流に包まれていた大地。今では、その本来の姿でそこにあった。
闇に染まった空を仰いでも、忌々しい災厄の姿は無く…ただ、ぽっかりと月が輝いていた。
トサリ…と、ガラスを背にして座り込み、手摺へと身体を預ける。
静寂に満ちたブリッジ内を、ゆるりと見回す。
先刻までの喧騒が嘘の様だ。
「フッ……クックッ………」
意味もなく、クラウドの口から笑みが漏れた。
「クックックッ……ッ…
アーハッハッハッハッ」
全てが、可笑しくて堪らなかった…。
まるで道化だ。と、笑いが止まらない。
馬鹿馬鹿しい。
くだらない。
何で…こうなってしまったんだろう?
様々な感情が、クラウドの思考を支配していく。
自分は、悲しいんだろうか?
伸びた前髪を後ろに撫で付け、天井を仰ぐ。
星は救われた。
優しかった彼女の思いが叶ったのだ。
それで良かったではないか…。
でも──
それでも……
「──────」
音にならない声で、彼
(カ)の人の名を口にする。
もう…自分には、呼ぶ事の許されないその名前…。
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