NOVELS

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目の前に、人の座っていない椅子と、
点きっぱなしのパソコンが一台のった勉強机。

椅子は数分前まで人が座っていた跡を残し、乱雑に置いてある。

パソコンには手袋のようなものがコードで繋がっており、
それもまた、乱雑に置かれている。

パソコンの画面は白く、中心のあたりに『エラー』と表示されている。

勉強机の本棚には
『CONNECT GATES Ver.6・取り扱い説明書』
と書かれた背表紙。

何処も荒れた様子の無い、平凡な机だった。

そう。
さきほど起こったことが嘘であるかのような、
いつもと変わらない机だった。


茶色に染めた髪を長く伸ばした女性、
すなわち母が叫び声を上げた。

自分はその時ちょうど、
リビングでテレビを見ていた。

いつもなら弟と見ていた番組だが、
その時は何故か、一人で見ていた。

その、絹を裂くような金切り声に驚き、
テレビも消さずに弟の部屋へ行った。

母が、
弟を呼びに行くと言っていたから、場所はすぐ解った。

そして、数秒も経たずにその、
目的の部屋まで来ると、
最初に目に入ったのが、
床に座り込み、両手で口を押さえた母だった。

そして、次に目に入ったのが椅子から落ちて床に倒れた弟だった。
その時思ったのだ。
ああ、母が驚いたのはこれだったのか、と。

そしてそれから、その異常さに気付いた。

椅子から落ちて床に倒れている。
普通は、倒れたら起き上がるだろう。
だが、弟はピクリとも動かない。

そして、自分はそこからすぐに立ち去って、
リビングで電話をとり、119をコールした。
 
そしてその数分後、
白い死神達は弟を運んで行った。

扉の外で、
自分はぼうっとしながらそれを眺めていた。

きっと、
弟はもう帰ってこない。

そんなことを思いながら、
くるくる廻る赤いランプを見ながら思ったのだ。
きっともう、弟は帰ってこない、
話すことも出来ないだろう、と。

自分は逃げたのだ。
弟の、
その姿を見たくなくて、
その現実を受け入れたく無くて。
 
そして、そこまで思い出した後、
酷い自己嫌悪に陥り、
その部屋を後にした。

あの日から、俺の・・・

いや、俺達の、戦いが始まった。
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