FF7

□恋が愛に変わる瞬間
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『好きだ、』


そう伝えたかった声は、もうお前には届かなくて。

言葉だけがあたりに反響する。


この言葉を、もっと君に、

この想いを、もっと君に、

この『好き』を、もっと君に、

…………

……、……………。










『俺たちさぁ……』

『…………』

『別れねぇ?』

『……あぁ……』

『…………んじゃあな、ザックス。』

『あぁ………レノ。』



そう言って別れたのはつい最近のこと。

別にレノのことを嫌いになったわけではなかった。

レノも俺のことを嫌いになったわけではなかった。

ただ、どうしてかは分からないけど、こうなる予感がした。

潮時?っていうのかな。

寂しいけど、辛いけど、心だけはなぜか冷静で、そんな自分が嫌になる。


あんなに好きだと言っていたのに。

あんなに身体を繋げていたのに。

心も身体も繋がっている、そう思えていた。

なのに。

どうしてこうなってしまったのかは分からない。

もしかしたらこのままずっと答えなんて出ないかもしれない。


本当は別れたくなかった。

でもあそこであの返事をする以外の選択肢が分からなかった。


まるでそうなることが運命のように。

別れることが運命のように。

出会ったことさえもが、運命のように。

俺たちは引き離された。








「……任務?」

「あぁ。少し遠出になってしまうが、今からでも平気か?」

「んー……大丈夫、かな。」


場所はゴンガガ。

俺の故郷だった。

思いたいことはたくさんあったけど、あの出来事から俺は自分でも自覚があるくらい放心状態だ。

両親に会えることさえも、俺の心を揺らしてはくれない。

親友のクラウドには今までにないくらいに心配されてしまった。

それでも、俺が今までを取り戻すことはなかった。


長い旅路を終えてやっと着いたゴンガガ。

来たのは本当に久しぶりで、雰囲気は昔のままだったことにひどく安心した。


「あら、帰ってきてたのね。」


そう笑顔で迎えてくれたのは母親。


「久しぶりじゃないか!どうだ、夢は叶ったのか!」


元気良く背中を叩いてくれたのは父親。


家族の温かさ、それは俺がこの短期間で忘れてしまっていたこと。

思わず涙が溢れてきたのを俺は止めることができなかった。


父は黙ったまま俺の隣にいてくれた。

母は微笑みながら俺の好きだった温かいスープを出してくれた。

その優しさにまた俺は涙した。





「好きな人が、できたんだ。


その人は、とても気まぐれで、俺なんか相手にしてくれなさそうな人で。


でもやっとのことで付き合えたんだ。


それからはすごく幸せで、ソルジャーの仕事だってはかどって、今では結構名の知れたソルジャーになったんだ。


でもある日突然冷めてきてしまって、色々考えるようになった。


それは相手も同じようで、俺たちはそばにいても考え込むことが多くなって、距離はどんどん離れていった。


その時から感じていた。


このまま別れんのかなって。


以前の俺なら、きっとそんなのは嫌だって、駄々捏ねて必死になるんだろうけど、自分でも不気味になるくらい冷静で……


それでもいいのかもしれないって思う自分がいた。


そして案の定別れて……


俺たちはきっと心変わりしたわけじゃないんだ。


嫌いになったわけではないんだ。


俺は今でも相手のことを思っている。


でも、それが恋だと言われると、よく分からなかった。


前の俺は確かに恋していた。


でも今のこの気持ちは、よく分からない。


好きだ、すっげぇ好き。


だから今のこの状況は、死んでしまうほど悲しくて、苦しくて、辛い。


でも俺はどうすることもできない。


どうしたらいいのか分からない。


俺、あいつと出会ってから新しいことばっかで、その中でもこの気持ちが一番分からない。


好きなのに、もっと傍にいたくて、今が辛くて辛くてしょうがないのに、このまま手放した方がいいんじゃないかって冷静に思う俺がいる。


俺、どうしたら、いいんだっ!」




想いを精一杯伝えた俺に、両親は笑った。

笑われるとは思っていなかっただけに、混乱してくる。


こんな俺の気持ちは笑ってしまうほど馬鹿なことなんだろうか。

こんな俺の気持ちは笑ってしまうほど簡単なことなんだろうか。



「馬鹿ねぇ、そんなところもあなたそっくり。」

「俺は嫌になっちまうよ。できれば似ないでほしかったなぁ。」


「…………?」



「ザックス、その気持ちはね、愛なのよ。


自分の事ばかり、相手の事ばかり、二人だけの幸福……それはただの恋。

でもね………自分のことを全部後回しにして、相手のことを考えて、その周りのことを考えて、あぁこうしなくちゃって思うのはね、愛あってのものなのよ。


決して、冷めたからとかじゃないの。

自然に別れてしまったのは、お互いが“愛”をしていたからよ。


どうすればいいのかなんて、難しく考えないで。

自分がやりたいこと、相手のことを自分目線じゃなくて、もし私だったら……そうシンプルに考えて。


それでも分からなかったら、会ってみればわかるわ。


会えなかったら、素直な気持ちを手紙に綴ってみればいいのよ。」




“愛”

それは、触れることのないと思っていたもの。

俺とレノの間には確かに恋があって、好きがあって………

愛なんて、考えてもなかった。

ただ一緒にいれれば、レノが幸せなら……


でもそれはいつしか変わっていった。

俺が隣にいることで、レノにどんな影響がくるのだろうか。

もしかしたら任務に支障が出てしまうかも。

偏見の視線を浴びることをなるかも。

俺といることが、いつか苦痛になる日が来るんじゃないか。


そんなことばかり考えていた。

それは、愛?

俺はレノを愛したのか?


そう思うと、不思議にも心にすっぽりハマった感じがした。

ちょうどいい、居心地が良い、そんな感じ。


そうだ。

そうなんだ。

好きじゃなくて、愛してるになったんだ。

そして、それはレノも同じだったんだ。


俺が今まで答えなんて出る筈がないと思っていたことは、案外近くに存在していた。

こんな俺の気持ちは、馬鹿で笑ってしまうほど、簡単なことだった。




「うん………。いきなりでごめん!……ありがとう。」

「あらあら私たちにしてみれば、そうやって頼ってくれた方が嬉しいわ。次来るときは、恋人も連れてきなさいね。」

「あぁ。俺、任務行くな。」

「いってらっしゃい。」

「……行ってきます!!」


簡単だった。

すっげぇ簡単だった!

あぁ軽い。

心が軽い!

早くレノに会いたい。

早くレノに伝えたい!

この気持ちも知ってほしい。

レノの気持ちを知りたい!


「こんな任務、さっさと終わらせるぜ!!」












『俺の大好きなレノへ。


なにから書き出せばいいかよく分かんねぇから、思ったことそのまま書くな!

まず、前言撤回な!!

俺レノに別れようって言われてああって言っちまったけど、あれなし!!やっぱなし!!!

なんかさ、色々考えてたんだよ。

なんで真正面からレノにぶつかれなくなったのかって。

レノもきっと俺みたいなことごちゃごちゃ考えてたんだと思ってる!

でさ!前置きとか苦手だから、結論な!

俺もうレノのこと好きじゃないぜ!

えっと、悪い意味じゃなくてな!?

愛してんの!!

意味わかる?よな?

愛してっから、こうやって色々考えるんだってさ!

俺それ聞いて感動した!

だってさ愛なんてもっと歳とってからとか思ってて、まさかこれが愛なんて思わないだろ?

俺はレノに恋してたけど、なんかさ、愛に変わったみてぇ!

それ自覚してすっげぇ安心したんだ。

まだレノを想っていられるって。

しかもこれからは好きじゃなくて、愛してる、だぜ!?

それってすっげぇこと!初めてだ!

あとさ、俺、レノも俺と一緒のこと考えてるって思うんだ。

自惚れとか……まぁそうかもしんないけど!まぁちがくて、なんとなく?つか、直感つか?

とにかく!そう思うんだ!

俺は分まとめんのとか嫌いだし、分かりにくいかも知んないけど、俺のこの手紙で、レノが俺と同じようなことに気づいてほしい。

それでな、なんで手紙なのかっていうとだな、直接会うと抑えが聞かねぇかもしれないし、レノにたくさん考えてほしいからなんだ。

たくさん考えて、それでも俺と別れたいって言うならそれはそれでいいぜ。

でも勘違いすんなよ!!

俺はレノを諦めんじゃなくて、もっともっと努力して、いつか俺と同じ気持ちをレノに持ってもらえるように、真正面から愛すために、また頑張るだけ!

だからレノがどう答えを出しても、俺と一緒にいることは確定な!

俺がレノを離すときは、俺がだぜ?

俺が、レノに完全に嫌われたって自覚したときだけだ。

死んでも離さねぇよ、簡単にも認めてやんねぇ!

この気持ちは、振り出しに戻って恋だって言われるかもしれないけど、愛だ!!

俺が精一杯だした答えだ。

だから、だからな、レノ。

俺の勘違いじゃないなら、一緒に入ってるモンつけて、俺の前に来て。

じゃあな、レノ。


ザックスより。』



読み終わった手紙は、今ではもうくしゃくしゃになっていた。

原因は、読んでる人の涙と、手の力。


レノは自分の部屋に挟まっていた封筒を見つけた。

なんの戸惑いもなく封を切って目を通すと、それは別れたはずのザックスからの手紙だった。

そして、一緒に同封されていたのは。


「バカっ、やろっ!!」


レノは走り出した。

すれ違った人が、自分を凝視していたのに気にせず。

涙が自分の頬を濡らしているのを気にせず。


待っている人のために。

自分を愛し、信じて、待ってくれている人のために。

そして俺が唯一好きになって、本気で恋をして、それを愛に変えてくれた愛しい人のために。


早くザックスに会いたい。

そして返事は口からいいたい。


なんなんだ、この纏まりもない文章は。

よくそれでソルジャーになれたな。

一体誰からこんなことを教えてもらったんだ。

お前だけじゃ、思いつかないだろうに。



目の前に見えた、黒い影。


「ザッ、クス!!!」


そこに俺は思い切り飛びついた。


「レノ……。」


「お前の文章、よくわかんないぞ、と。

纏まりがないし、話し言葉すぎて手紙とはいい難いし。

言葉の使い方もなってない。

それと、直球すぎだぞ、と。

なにが好きじゃないだ。

馬鹿じゃないのか。

俺だってもう好きなんかじゃない。

好きじゃっ、ないっ!

あとっ、これ……こういうのは、直接渡してつけてやるのが基本だぞっ!!」



封筒から出てきたのはシンプルな指輪。

それをザックスに叩きつけると、ザックスは苦笑して、その指輪を受け取った。



「レノ、愛してんだ。俺のものになって?」


「……仕方ないからなってやるぞ、と。そのかわり、お前は俺のだ。」



そんな可愛くない言葉も、ザックスにとっては嬉しい言葉でしかなかった。

レノのザックスよりも小さい手をとって、左の小指につけた。

そして薬指をキュっと握って、レノを見つめる。


「この指、もう少しだけとっといて。俺が予約な!」

「早くしないと予約は無効だぞ、と。」

「そりゃ大変。俺が見張っといてやるよ。でさ、レノ。」


ザックスはポケットの中からもう一つの指輪を取り出して、レノに渡した。


「レノもつけて?」


レノは素直に受け取って、ザックスがやったのと同じように、左の小指にその指輪をはめる。


「ザックス………」

「ん?」

「愛してるぞ、と。」

「うん。俺も、愛してる。」



そう言った二人には、確かに幸せが宿っていた。

その象徴だというように小指の指輪からは目映い光が放たれている。


レノの瞳から涙はもう消えていた。

ザックスの心から不安はもう消えていた。


二人が考えた結果がこれだ。

その事実は、絆を深め、理解を深め、愛を深める。


決して忘れないように。

この気持ちを忘れてしまわないように。

手紙を綴ったことは、一生の宝物になる。


拙い手紙と、指輪………それは、恋が愛に変わる瞬間を表すように、当たり前のように二人のそばにある。

それから何年後も、何十年後も、ずっと………



(I love you with all my heart...By,Z.)

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