FF7

□まだ『好き』は言ってあげない
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目の前にうずくまっている黒い仔犬を発見した。

今は深夜で普通ならこんな時間に出歩いているやつなんて、任務帰りか馬鹿だけだろう。

俺はもちもん前者なわけだけど。

確か仔犬も今日は任務だったはずだけど、こんなに遅くなるとは思ってもいなかった。

だとしてもどうしてこんな所でうずくまっているのか。

任務で失敗でもしたのだろうか。

心配なんてする理由もないが、目の前にいられては困ってしまう。


「………ぅ、……、」


仔犬から小さくうめき声が聞こえる。

それだけ聞くと不気味だが、発生源は仔犬である。

そういうのはなしにして、仔犬が発した声は苦しそうな声だった。


うずくまるほど痛い怪我をしたのか?

でも重症ならソルジャーは厳重に管理されるはずだし、マテリアもあるからこうはならないはずだが。


「何をしている、仔犬。」


仕方ないから声をかけると、ビクッと反応するだけで無視。

思わずイラッとしたが、気にしていられないくらい苦しいだけかもしれない。


傍まで行って顔を覗き込んでみる。

苦しそうに瞑られた目、食いしばった口、胸あたりを押さえている手……

もしかしたら、モンスターになにかやられて毒を受けたのかもしれない。

その毒が即効性ではなかったら、と考えると可能性はあった。


「おい、仔犬……」

「く、るしぃ………ジェネシス……」


俺の名前を呼ばれても困るのだが。

だが本格的にやばいのは声でわかった。

この仔犬は我慢強くて、俺にはいつも強がるからこんなふうになってしまうのは余程のことだと分かる。


「はぁ……」


このまま放置しておくのも面白いが、バレたときアンジールがうるさそうだったので仔犬の背中に手を置いて声をかける。


「おい、歩け。」

「はっ、はっ、む、りっ!」


苦しそうに息切れしながら無理と断言されてしまった。

しょうがない手のかかる仔犬だ、と思いながらも背中をさすってやる。

本当は叩きたかったが、そうしたら本当に心臓が止まりそうだったのでやめておいた。


「っ、おい………」


あまりの苦しさに耐えきれなくなったのか、仔犬が意識を手放す。

耐えきれずため息がでるが、そうしたところでこの時間誰も通ってくれないから押し付けることもできない。

アンジールに電話して押し付けるのもいいが、生憎あいつは今遠征中………全く、役に立たないったらありゃしない。

どうして俺がこんなことを………


「おも………」


頬を叩いても抓っても身動きをしなかった仔犬を抱き抱えて、俺の部屋へ向かう。

医務室に行っても良かったが、またあそこに戻るのは嫌だし遠いのでめんどくさい。

任務で疲れてるっていうのに、この仔犬は………

治ったら生活できなくなるまで飲んで奢らせてやる。







「………ん、」

「起きたか。」

「あ、れ………?」


あれから3時間ほどベッドを貸して寝かしてやった。

やっと起きた仔犬はまだ状況判断ができていないようだ。

ちなみに仔犬の身体には毒どころかなにも異常なし、至って健康な身体だった。


「ジェネシス………」

「まだ痛むのか?いい加減にしろよ、俺は眠ってないんだ。」

「……えっ!?あ、ごめん!!」


やっと覚醒したのか、飛び起きる仔犬はうるさい以外の何者でもない。

痛みはまだ少しあるようで顔を歪めていたが、大分治ったようだからもういいだろう。

仔犬の身体を押してベッドをあけさせ、そこに俺も寝転ぶ。

仔犬の体温であったまったところは心地よかった。


「ジェネシス……?」

「なに。」

「あの、えっと……」

「これ、俺のベッドなの。文句あるなら出てってよ。」

「え、いや………」


なんとなく言いたいことは分かるが、眠気が強くてあまりものを考えたくない。

仔犬はでかいわりに子供体温だから気持ちいいし、俺のベッドはキングサイズだから特に問題はない。

そのまま仔犬に背中を向けて眠りにつこうとすると、背中にコツンと仔犬の頭が当たった。


「……ありがと。」


いつもはうるさくて強気でうるさいくせに、こういう時だけ大人しいと調子が狂う。

その言葉に俺はなにも返事を返さず、眠りにつこうとした……

のだが。


「ジェネシス……すき。」

「……は?」


せっかくの眠気も全部どこかへ吹っ飛んでしまった。

仔犬が変なことを言うから。


「すき、ジェネシス、すき……さっき気づいた。

ずっと考えてた。

ジェネシスのこと考えると、胸が苦しくなる理由。」


ちょっとまてよ、胸が苦しそうだったのってそれ!?

この仔犬、まじありえない。

こんなことになるならあのまま放置しておけばよかった。

そんな原因で死ぬなんて聞いたこともない。

あと、好きなんて言われても………


その時だった。

背中に湿っぽい何かを感じる。

考えるまでもなく、それは仔犬の涙だった。


泣くくらいなら告白なんてするなよ、なんて思うが言ってしまったのはほとんど衝動的な何かだったのだろう。

ぐずぐずと泣きすする声が聞こえる。

いつの間にか服を握っていた仔犬の手は震えていた。


その弱々しい姿にため息をつく。

それに仔犬が反応したが、気にすることもなく俺は身体を仔犬の方に向けた。

向き合って、仔犬の顔を持ち上げると、そこには涙で濡れたぐちゃぐちゃな顔が。

不安と後悔と悲しみと少しの期待がこもった瞳。

こういう目は、見ているとゾクゾクする。


期待に応えてあげたときの顔が見たい。

それと同時に裏切ったあとの絶望した顔も見てみたい。

でも見れるとしたらどちらか1つ。


仔犬の瞳に唇を寄せて、涙を舐めとった。

しょっぱくて口に入れるものではなかったが、その瞳から溢れる雫を残さず掬いたくてたまらない。


「仔犬。」


名前を呼ぶと、微かに反応する仔犬。

そんな仔犬に笑いがこみ上げてくる。


「………なんで笑ってんの。」

「何、悪い?だって面白いんだもの、仔犬の顔。」

「なっ…!俺は真剣にっ……!」


俺の手を払って立ち上がろうとする仔犬の手首を掴んで、ベッドに戻す。

本当に、俺の手を払うなんてアンジールの躾はまだまだだね。

仔犬は抵抗しているつもりだろうけど、俺にとってはまるで無抵抗のようなもの。

英雄が夢なら、こんなときでも力出せないとダメじゃない?

ま、それは関係ないかな。

だって仔犬は俺の事好きな訳だし。


「離せよっ!帰る!!」

「何処に?」

「どこって……俺の部屋に決まってんだろ!」

「その必要はないよ。」


握っていただけの手首に更に力を入れて、顔の左右で固定する。

そして仔犬の唇に触れるだけのキスをした。


「今から仔犬の部屋はここだからね。」

「ぇ……?え、えぇ!?」

「あぁもううるさいな、文句あるの?」

「文句っつか、なんでっ!」


理由なんていつだって単純で簡単じゃないの?

だから人は簡単に見落として、大切なものまで失ってしまうんだから。

おあいにくさま、俺はそこまで馬鹿じゃないからね。

大切なものはなくしたりしないし、理由だってちゃんと見つけられるよ。


「ただ、仔犬のいろんな顔がもっと見たい。」


今までに見たこともないような、様々な顔、表情。

絶望させたらそこで終わってしまうけど、期待に応えてあげればもっと他の表情も見れるでしょ?

たとえば、好きな相手にしか見せない顔とか、欲望にまみれた顔とか、他にも色々。

仔犬の表情は豊かだから俺を退屈させないだろうし、何より面白そう。

それに、絶望した顔は最期で十分だからね。


「………俺のこと好きなの?」

「さぁね?」


まだ好きっていうのは早いよ。

溜めて溜めて、我慢して我慢して、焦らしまくって、耐えきれなくなったら言ってあげる。

そうしたら、きっともっと楽しめる。


歪んだ愛情だって構わないでしょ?

そんな俺をお前は好きになったんだから。

優しくしてなんて言われてするような人じゃないからね、俺は。

100回に1回優しさがあればいいほうなんだから。


「………好き。」

「はいはい、もう寝ろよ。俺は眠いんだから。」

「うん………おやすみ。」

「おやすみ、仔犬。」


お楽しみはこれからなんだから、起きたら早速覚悟してろよ?

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