きままなお話

□菊丸家三男の日記〜読んじゃダメ!〜
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「…そんなに俺が信用できないのか?」


いつもの声のトーンより低めだけど、どこか不安定な物言いで、俺はチラッと目だけで手塚を見た。
表情に少しだけ、影が見えてなんだか人間らしいとこあるんだ、なんて失礼なこと思っちゃったりして。



「失礼だ」
「へへ、ごめん」


また声に出してた俺は誤魔化すように笑った。そしたら今度は手塚が少しだけ、ちょっとだけ、顔が変わった。


「て、手塚、いま、笑った?」
「当たり前だ。俺も人間だ」
「そ、そだね、、」


うわ!レアすぎる…っていうかどうしよ、俺今絶対顔赤い!だってすげー心臓喧しいもん!
だって手塚が、俺に、笑って、今こうして手を握ってる。


「俺、死んでもいいかも…」


また涙がでて鼻をすすって言った俺の言葉に手塚はまた不機嫌そうに顔を歪めた


「簡単に死ぬなんて言うな」
「ん、ごめん」



らしくなく目を泳がせて照れたような言い方が、似合わないのに可愛く感じた。


「ごめん、ごめんね。」
「謝らせてばかりだな」
「ありがと」
「…」


視線を俺に一度向けたけど、また泳がせた。きっと直接お礼言われたり、笑顔向けられ慣れてないんだ。
今度は俺から手を握る。


「俺ね、手塚が好きだ。これからも好きでいていい?」
「お前の意思はお前の自由だ」
「でも、もし手塚が不愉快な気持ちだったら俺側にいたくない」
「…」



勝手に期待してたけど、手塚がただ優しいだけかもしれなくて、本心はわからないから。


「好きなやつに嫌われたくない。だから、お前が「戻ってこい」


俺の言葉を遮って手塚はぶっきらぼうに言った。
今度は泳がせずに、目を合わせて。


「勝手に俺の意思を決めるな。お前の好意は不愉快だとは思わないし、その事でお前を嫌いになったりなど絶対にない。それに、お前はテニスが好きだろう?」
「…うん」
「なら辞めるな。俺はお前と共に全国を制覇したい」
「う、うん」
「…」
「手塚?」
「…ちゃんと言ったぞ」


目元が薄く赤い手塚に、俺のほうが恥ずかしくなった。でもそれよりも。


「手塚…ありがと。大好き」


俺もちゃんと言ったよ、って泣きながら笑った。
手塚はなにも言わなかったけど、手はずっと握ってくれていた。







−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



10月7日 晴れ

あれから2年。
あの日から俺は日記を書くのは封印して、今まで秘密の日記として引き出しの奥へとしまってたけど時々見てたんだ。
あれよあれよと過ぎて、一番長くて暑い夏に全国優勝をした。
中学最後の夏が終わって、秋になった今でも俺は手塚を好きでいる。
今でも手塚からはなんのアクションもないけどね?
飽きっぽい俺が、よくもまあ続けているもんだ。
日記を読み返していると、昔俺がどれだけアイツを見てたか恥ずかしいぐらいわかる。あの頃の、切なくて泣きたくてどうしようもなかった自分を思い出す。今だってそれは同じだけど。






♪♪♪♪


俺は日記を書く手を止めて、携帯のディスプレイにある名前を見て、にやけそうな顔を押さえて通話ボタンを押した


「…もしもーし?あー、1週間前に買い物付き合ってくれるって約束までしたのに当日になって生徒会の仕事を優先した薄情な手塚?なんか用?…当たり前でしょ、俺どんだけ楽しみにしてたと思ってんの。……いや。許さない。…いいよ、不二と一緒にいくから。……じゃあ駅前の俺の好きな紅茶買ってきて40分までに俺んちきたらチャラにする。…ダメ、40分まで。……よし、時間厳守だよ、じゃあね」


携帯をきって、俺は日記帳を閉じてまたひきだしにしまった。
手塚のことだから、多分頑張って約束の時間前にくるだろう。
俺は立ち上がって部屋からでた。
誕生日を忘れている好きな人に、食べてもらうケーキを冷蔵庫からだす為に。




あの頃と、何も変わらない二人だけど。
俺はそれでもいいと思ってるよ。

それはたぶん、いつか俺の側からいなくなるアイツなりの優しさだとも思うから。
だから俺は変わらずいい続けるんだ。




「手塚、大好きだよー!」




手塚が約束の10分前に、紅茶の持ち帰りパックをぶらさげてドアを開けたら、そう叫んで笑ってやるんだ。



(でもいつか、俺のこと離したくないぐらい好きにさせてやるからな、って日記に付け足したのはナイショ☆)



END
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