きままなお話
□菊丸家三男の日記〜読んじゃダメ!〜
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7月5日(月)はれ
部活行かなくなってしばらくたったのに、気がついたら手塚のことばっかり考えてる。
アイツ、今ボール追いかけてんのかな、無愛想だからコミュニケーションちゃんと取れてるかな、今日もまた可愛い子に告白されてんのかな。
こんなに手塚が好き。
涙なんてカッチョ悪いってわかってても、毎日泣いてる。俺本当に情けない。
そんな俺を見かねて姉ちゃんが笹の葉持ってきた。
そういえばもうすぐ七夕だ。
「いつまでも不細工な顔してないで願い事書いてみたら」って言うから、書いてみた。
手塚の、笑った顔を俺にください。
7月7日水 雨
七夕も大雨で天の川は全く見えない。
織姫も彦星も可哀想だにゃ〜
一年に一度しかあえないのに。
そして俺の願いごとは
きっと、叶うことはない。また泣きそーになる。手塚に会いたい。
でもまたさけられたら俺泣いちゃうよ。それでも、、
手塚、大好きです。
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「そういうことは面と向かって言って欲しいものだな」
「にゃ?!」
後ろから聞こえた声に俺は奇声をあげて振り向くと、いるわけない人物が偉そうに立ってた。制服に、ラケットのバックを担いでいたので部活帰りだとわかるけど、あの堅物が寄り道を、しかも俺んちの俺の部屋にいるなんて。
「な、な、なんで、、」
「いつまで部活に来ない気だ」
いつもどおりの厳しい表情と甘やかさない言動の手塚に、本物なんだってわかって。
「…何故泣くんだ」
「…うん…」
今俺の目の前で、俺をちゃんと見ていてくれてるのがお前なんだってわかって。
「おい」
「うん…うん…」
欲しいと思ってたのとは違う仏頂面だけど、それが手塚らしく感じたに。
「…俺が泣かせたのか」
「ん……」
もうなんでもうんってしか言えないぐらい、涙がボロボロでてきた。
あんなに毎日泣いてても涙は枯れないんだって感心する。
手塚が難しい顔でいるのがわかっても止まらないんだからしょうがないじゃんか。
大体手塚がいけないんだよ。全部手塚のせいなんだから困らせてもバチは当たらないんじゃないか。
「…理不尽だ」
「なにが?」
「俺のなにがいけないというんだ」
…どうやら思っていたこと全部口走っていたようで、手塚は腕組みをしてブスッとしていた
「先程の言葉にしてもそうだが、俺に対してお前は直接話そうとはしない。そういった態度をとられるのは不愉快だぞ」
「…なんだよ偉そうに。大体手塚が悪いんじゃん、俺のことあからさまに嫌った態度とるんだも…」
?今、なんて言った?
「ね、先程のってなに?」
「…好きだと言ったろう」
好き、と俺が言ったって?
「ああ」
手塚はバツ悪そうに視線をそらす。
その頬がいつもより少し色みを帯びていたのを見て、俺はようやく気づいた。
「…声に出してた?」
「ああ」
「…なんで聞いちゃったわけ…」
俺はヨワイ12にして、絶望と羞恥に打ちのめされてどうしたらいいのかわからなくなった。
目の前の手塚に八つ当たりするしかなくて、でも嫌われたくなくて一生懸命頭で言い訳を考える。
『嘘だよ、お前なんか好きじゃない』
そう言えばいいのに、言葉がでてこない。
だって本当は好きなんだ。嘘をつくのはもうツラいんだよ俺。
「嘘にするな」
顔をあげると手塚が眼鏡を通して俺をまっすぐ見ていた。
こんな時まですっごいカッチョイイなんて、ズルいや。
「ごまかすな。俺はお前の本心を聞きにきたんだ」
「…そんなの、俺だって知りたいよ。手塚のココロ」
俺が手塚を好きだって聞いて、どう思ったの。冗談にしては質が悪いって不機嫌になってるの。それとも、本気で気持ち悪いって思ってるの。
怖くて恐くて、でも知りたいんだよ。お前の心が。
「…そうだな、お前だけに言わせるのはフェアじゃない」
手塚は目を泳がせていたけど、意を決したように俺の前にズカズカと歩み寄ってきたので、俺は少し身動いだ。でも手塚に「逃げるな」と睨まれて腕を捕まれた。
殴られる、と思って反射的に片方の腕を顔の前にあげたけどそれも捕まれて無理やり下ろされた。
どうしよう、どうしよう、やっぱり怖い。手塚の言葉を聞きたくない。否定しないで、何も言わないで。
俺はうつむいて涙をみせないようにするのが精一杯だ。