きままなお話

□あの人とアイツと俺の不可解な陣形
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「俺大和部長のテニス、見た事あるんだ!部長が2年生の頃だけどすっげ〜かっちょよかったんだ〜!あ、ジャージもだけど、ちゃ〜んとテニスしてるのもね!」



だから俺テニス部に入ったの!と入部したばかりの菊丸が、着替え中に他の部員に嬉々揚々と話していたのを手塚は離れた位置で着替えながら耳に入ってきた。

そんな不純な動機で、といつもなら怪訝な目を向けるが、自身も大和部長を尊敬していたし確かに年齢相応なら見た目の格好がいいという理由は当然だとも思う。



思えばそれが、菊丸と初めて共有した意志だった。







―――――――――


「いいなあ〜手塚は!」



休日の部活中、休憩を挟んでドリンクを飲んでいた矢先に言われた。隣には菊丸がタオルを頭に被せて座り、立っていた俺を見上げていた。



周りには少し離れた場所に先輩が数人いたが、それ以外は各自休憩をどこかで満喫しているらしく、話かけられたのが自分だとようやく確信を持てる
「テニス先輩より強いし、頭いいし、ちょっとかっちょいいしさ!それに大和部長によく見てもらってるし」



普段あまり向けられない瞳にガラスに向かいあうように自分が映った。不二たちが菊丸を猫のようだと言った意味がわかるほど黒目が大きく、目に力があった。


「あ〜あ、俺も早くレギュラーになりたいなぁ〜!大石も補欠だし、不二もうまいから多分すぐレギュラーなれるだろうし〜!ね、手塚ってどうしてテニス強いの?やっぱ秘密の特訓とかしてんの?」


黒目がズイと近づいてきて、俺は若干その勢いに引いた。一気にまくし立てられるのには慣れない。しかし気にせず菊丸は喋り続けた



「俺さ、早くレギュラーになりたいんだ!早く大和部長に近づきたいんだよ」



その理由に俺は面には出さず内心首を傾げた



「大石とダブルスを組むためじゃないのか」
「それもあるけど!だってさだってさ、ず〜っと憧れてたんだ、大和部長のテニスってすっげえかっちょいいんだよ!今は……あんまり打たないけど」


一瞬目を伏せたが、菊丸はハッとして俺の後ろに目を見開いた。


振り向くと、少し離れた先輩らの輪の中に大和部長がいた


休憩も終わりだろうか。俺たちも戻ろうと声をかけようと菊丸に向き直ると、俺は硬直してしまった。



菊丸は言葉を発せずとも、その熱いまでの視線や桜のような頬の色や、普段見せない穏やかなようで甘い笑いかた――そうまるで『可愛らしい』という表現が似合う――そんな表情をして大和部長を見つめていた。



俺は声をかける事ができず、ただ彼がどれだけ大和部長を崇拝しているかを知っただけだった




―――――――――

それから度々俺は菊丸が大和部長を見る表情に気付いた。
それは決まって、俺が大和部長と話している最中、ふと気づけば彼が部長をじっと見つめているのだ。そして俺と目が合えばすぐに反らす。多少口を尖らせたように見える時もある。
――――大和部長は気付いているのだろうか?あの射抜くような熱い視線に。
「最近、手塚君は菊丸君を見てますね」


今まさに考えていた人物の名前を出されて俺は少なからず驚いた
当の大和部長は眼鏡の奥の表情が読み取れないが、口元は笑って手元の資料を捲っていた



「気になりますか?彼」
「いえ」



俺が菊丸を見ているのではなく、菊丸が貴方を見ているのだと言いたかったが、何故かそれは無粋のような気がして止めた



「同期と仲良くなるのは良いことですよ。君は実力が突出しているからなかなか1年生とコミュニケーションを取りづらいと思っていました」
「…そんな事はありませんが」



確かに敬遠される時もあるが、大抵のメンバーとの交流を持っているつもりだ。
曖昧な返答に大和部長は笑って肩を叩いてきた



「君の努力や才能は、皆を惹き付ける力とカリスマがある。君は必ずいい柱になります。僕はそう信じてますし、期待してますよ」




そう言われて嬉しい反面、背中に突き刺さるような視線を感じて居たたまれない感覚を無視するのが精一杯だった
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