きままなお話

□恋と愛、あの人と君。
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「ごめんね、君の気持ちは嬉しいけど受け取れない。本当に、ごめん」


泣きそうな顔を堪えて「そっか、ありがとう」と笑っていう彼女に頭をさげる。


ごめんね、本当にごめん。


好きな人に断られるつらさは、俺自身一番わかってる。だから、俺ができる精一杯の誠意を相手に伝えてるつもりだ。いつも。あの日から、ずっと。











「辛いってわかってるなら、一度付き合ってみるって手もあるんじゃない?」
「そんなの、本気で告白してきた子に失礼じゃん」


菊丸は学食でオムライスを頬張りながら、向かいの席にいる不二にムスっとした。その不二は食堂一辛いと言われている激辛グリーンカレーにタバスコをドバドバかけながら笑っていた。


「そう?試しに付き合う選択肢のほうがバッサリ切るより望まれてると思うけどね」
「後で必ず別れるってわかってんのに付き合おうなんてムリ」
「相変わらず潔癖だね」
「お前が遊びすぎなんだよ不二。5股とかありえないでしょ」
「付き合ってはないよ、彼女らはお友達なだけだよ」
「夜だけのだろ?」
「寂しいっていうから」


ふふ、と意味深な笑みを向ける不二の考えていることは昔からわからない。中学から一番長い付き合いだが、未だに。
高校は違ったが、時折テニスをしたし交流もあった。大学は学部が違ってもこうして食事やサークルは一緒だ。テニスのサークルではダブルスもしている。今では大石と同等ぐらい深い友人だ。寧ろ、真面目な大石にはできない話も、不二にしてるぐらいだが。


「僕もね、ちゃんとした恋してみたいって思ってるんだよ一応」


タバスコをかけおえたと思ったらおちつきはらった態度のまま、今度はは七味唐辛子をかけはじめて、菊丸はゲッと思わず引きながら焼き魚をくわえる。


「最初はうまくいくんだけど、どうしてかなあ?食事行ったあとすぐ別れ話になるんだよね?あと、由美子姉さんの料理をご馳走したりすると、暗い感じになるんだよ」
「…由美ねーちゃん料理うまいから自信なくすんじゃないの」


間違ってはない解答を送ると「あまり気にしないでいいのにね」と笑ってシスコンぶりを発揮する。
そこにも彼女が引く原因があるのだが、一番はやはり目の前の尋常じゃない激辛の味付けのせいだろうことは言わない。言っても直した試しがないので菊丸も諦めて味噌汁をすすった。


「辛いの好きなのはいーけど、やりすぎると内臓ダメにするかんな。痔になっても知んないよ」
「栄養士のタマゴさんに言われたら怖いね、気をつけるよ」


そう言って、なくなりかけの唐辛子の蓋を閉じる。


「ねえ英二、君はどうして栄養士の資格とりたいって思ったの?」
「いきなりなに?」
「英二が大学行くって言った時は、アイドル科にでも入るのかって思ったのに」
「そっくりそのまま返すよ。不二だって記者になりたいって言い出した時は皆驚いてたじゃん」
「カメラで写せるからね、いろいろ」



お気に入りの自作の一眼レフを片手になにやら笑みを浮かべる不二に菊丸は冷や汗をながした。コイツが記者になったら確実に暴かれる人が多くなるだろうなど予想して。



「大体英二、管理栄養士にもなれるって講義の先生が薦めてたじゃない。なんで断ったの?」
「別に、そこまで食に対して上を目指してるわけじゃないもん。美味しく料理できればいいし、体に悪いものがわかればそれでいーの、俺は」
「それは手塚のため?」


ガチャン、とお椀をおとしてしまう。



「…なんで手塚がでてくんだよ?」
「プロやってる手塚の健康面を考えてかなあーって思って」



ニコニコ笑顔をふりまく不二に、菊丸は言葉がつまってハアーとため息を盛大についた。



中学生を終わりかけた頃に、菊丸はようやく不二には全てばれていると知った。「僕に恋してみるって手もあるよ?」という寒い冗談つきだ。当初はごまかそうと必死だったけど、不二はいつものように優しく友人として接してくれたので泣きたくなるほど安心して本音を話せた。
大和部長のこと、――――そして、手塚のことも。



「英二がずっと告白を断っているのは芸能人かアラブの王子様と付き合ってるかじゃないかって噂だよ、僕の学科ではね」
「なんでアラブなんだよ」
「それは女子に聞いて」


面白がって笑う不二は真っ赤なカレーを口にする。まだまだだね、と昔の後輩の決め台詞を添えて。



「手塚、今度は全豪オープンにでるみたいだよ」
「え、だってケガが」
「ようやく全快したらしいよオフレコだけど。相変わらず、よく痛めるわりには回復早いよね」

不二はマスコミ関係の学科なので、情報にはスピーディーで正確だ。
だが信じられないといった表情で菊丸デザートのプリンの蓋をあけた



「だって今度は膝だよ?しかも古傷の肘も手術して6カ月たってないのに…おまけに向こうで食中毒おこしたらしいじゃん。バカだよ」
「詳しいね英二」


ニヤニヤしてくる不二に菊丸は「雑誌みただけだよ」とスプーンを口に含む
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