歌劇小説2

□さくら ひらり
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あげない

風なんかにやらない

桜なんかにやらない

コイツは俺のだから





【さくら ひらり】













東京から少し離れた片田舎

そこは人の雑踏というものを知らないような場所だった


聞こえるのは都会に響く自動車の音ではなく

自然そのままの音だった




「見頃だね」


横にいたリュウが呟いた
確かに見事に咲いている桜だ


俺達は人気のない道を歩いている

春からドラマで忙しくなる俺に、ラジオのMCという忙しさのリュウ


『見逃す前に見に行こう』


と言う提案で、俺達はここに来た


首都にいたらこんなにのんびり出来ないだろう


日帰りだが久々にゆっくり出来ることに肩の力が降りる



何をするわけでもなく

必要以上に喋るのでもなく

ただ並んで歩く



それだけでよかった




不意にリュウは前へ手を伸ばし始める



何をしてんだ?と聞けば屈託のない笑顔で笑った



「子どもの頃よくやらなかった?地面に落ちる前に舞ってる花びら掴むと願いが叶うって。」



ああ…そういえばあったな。そういうジンクスみたいなやつ


小さい子がやってるの見たことある


落ちてくる花びらはたくさんあるのだが、なかなか難しいのか掴むことが出来ないでいる


「コレ結構難しいな。それとも俺の反射神経鈍ったのかな?」


苦笑しながらもやり続けるリュウの歩幅は少しずつ早くなってきている


ついには俺を追い越していった


『あんまり先いくなよ』

そう声が出かかった瞬間


強い突風が吹いた



桜の木はしなり風に煽られる


枝を離れた花びらは風任せに散っていく



その瞬間


視界は桜色に染まる

ほんの一瞬の出来事


だが、その一瞬


リュウの姿が桜に遮られ見えなくなった


まるでさらわれたかのように






風がおさまると元に戻る風景


目の前にはちゃんとリュウがいる



「掴めた!ねえ工さん掴めたよ!」



ニコニコ嬉しそうに笑って花びらを見せてくるリュウ



『良かったな』


と笑いながらも少し早足で駆け寄り手を握る



いきなりのことに驚いたのかリュウは不思議そうな顔をしていたが


俺は止まらない






ひらりひらり舞い散る桜の下を通りながら小さな声で呟く




『やらねえよ』






コイツは俺のだから


お前らになんかやらねえよ


絶対にな

















fin
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