奉献之文

□夏風、愛しい天邪鬼。
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「粥を持って来ました。少しは食べて下さいよ」


ぎろりと熱で潤む目を鋭くさせ唯一言。





「嫌だ」


「…?どうしてです」


「嫌なものは嫌だ」


「『嫌だ』は理由になりませんよ殿」


「……充分理由になるだろう」




−お前の手を煩わせる事はしたくない。自分一人でも飯位食えるからどうか執務に専念してくれ−




−左近の足手まといにはなりたくないんだ−

そう口に出せぬ己に平素ならば憤っていただろう。
しかし何を血迷ったか三成は己の真の言葉に気付かぬ左近に怒りの炎を燃やす。

そこで左近がどういう意味かは知らないが溜め息を一つ。落としてしまった。
三成は目頭から零れそうになるものを押さえ、布団から身を起こした。


「殿…まだ起きられては」


「五月蝿い!」


肩に置こうとした手を鋭い平手で払い落とす。驚いた左近はしばし呆然となる。


頭の中で半鐘を掻き鳴らしたように痛みがぐわんと広がる。
顔を歪めながらも三成は口をきゅと結んだ。

「呆れているんだろう…?」


呆然とする左近に三成は自嘲する口調で語りかける。


「意味が…分かりませんな」


「そのままの意味だ…」


喉が痛んで声が掠れ上手く言葉が紡げない。上手く言葉が紡げ無いのは普段から何だが。

「ひ弱な体のくせに…無茶をして…寝込んで…げほっ」


「っ…」


耐えていた涙が溢れてくる。一度堰を切ってしまえば容易には止まらない。


「こんな主要らぬと言えば良いだろう…!こんな世話のかかる…小僧のような主要らぬと……」


「殿…お止め下さい!喉が悪くなる!」


ぼた、と握った拳に、布団に、着物に。
三成の想いの丈が染み込んでゆく。
頭も喉も痛いが一番痛むのは胸の辺り。


げほげほと咳込んでいるとぎゅうと逞しい腕が強く抱きしめ、背中を摩ってくれた。
左近の着物を強く握る。

咳が止まると鳴咽が腕の中から聞こえてきた。








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