奉献之文

□異・山月記
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「良い子だな左近は」

頭を一つ撫でてやる。左近を子供扱い出来る日が来ようとは。
優越感に浸っていると左近も嬉しかったのか耳がぴくりと上下に振れた。


「いってらっしゃい。殿」


「うむ。暇ならこの袋の中の物で遊んでいろ」


赤い巾着を渡され、口を少し開けてみれば中には小さな毬やらが入っている。


「殿…これは」


「猫を飼っているという者から借りて来たのだ…動くな」


首には鈴がつけられた。
自分は虎になったのに、これでは猫ではないか。抗議しようにも主が楽しげに微笑らっているので出来なかった。

「夕方…様子を見に来てやる」


言い残すとパタンと襖が閉められた。

「……」


尾が手持ち無沙汰にゆらゆらと揺れる。
左近は己がぐるると低い唸り声をあげたのに気付かなかった。


「…にしても」


先からそわそわして落ち着かない。くんくんと匂いを嗅ぐと甘い香りだ。梅の芳香と似ている。


「……これか?」


一際強い香りを発していたのは三成が持って来た赤い巾着。

手荒に開けるところんと小さな、今の左近には重大な物が畳みに落ちた。












−−−−−


「左近、入るぞ」


執務が立て込み、三成が左近の部屋を訪ねた時には空が紅から藍色に変わった頃であった。


す、と襖を開くと左近は部屋の中心で寝転び、ぐるぐると唸っている。

三成は眉を潜ませながら左近の体を揺すった。

「左近?どうした?」

刹那、
喉笛を食い千切らんばかりの速さで左近は三成の肩を掴むと、だんと畳に華奢な体を叩き付けた。


「ぐっ!…左近、何を」


「体が…熱いんです」

言葉の端にはぐるると獣声が混ざり、目はぎらぎらと獲物を血祭りに上げようとする時の獣の瞳によく似た光りを宿していた。
よくよく見れば目の黒い部分が三日月型に変わっている。


「さこ…んんっ!!」

食いつくように唇を奪う。滑り込んで来た舌は無遠慮に三成の口腔を犯してゆく。








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